研究課題/領域番号 |
17K10875
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研究機関 | 東京医科大学 |
研究代表者 |
秋元 治朗 東京医科大学, 医学部, 教授 (10212440)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 光線力学的療法 / 悪性脳腫瘍 / 糖鎖結合クロリン |
研究実績の概要 |
光感受性物質であるtalaporfin sodiumと半導体レーザを用いる光線力学的療法 (Photodynamic therapy: PDT) は原発性悪性脳腫瘍を対象とした術中補助療法として保険承認を得ている。PDTの機序としては、腫瘍細胞内に選択的に取り込まれた光感受性物質がレーザ光照射によって励起状態に移行、その後、基底状態に復する際に生ずるエネルギー格差によって、組織内溶存酸素を毒性の強い一重項酸素に変換し、腫瘍細胞にアポトーシスを誘導、腫瘍新生血管を閉塞することによって、腫瘍細胞制御を図るものである。近年の研究により、PDTのもう一つの機序として局所における宿主免疫反応の誘導が示されている。 研究者は腫瘍内浸潤マクロファージの役割に注目している。悪性脳腫瘍に浸潤するマクロファージの大半はM2と呼ばれる、腫瘍増殖を促進するサイトカインを分泌するものであり、腫瘍細胞のみならずM2を傷害することは、PDTの効果をより高められる可能性を示唆するものと考える。M2マクロファージはその表面に糖鎖の一つであるマンノースのレセプターを有している。本研究ではマンノースを結合させた光感受性物資を用いたPDTを行うことにより、M2の制御も同時に行える、光線免疫療法(Photoimmunotherapy:PIT)の可能性を検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究者はマンノース結合光感受性物質、マンノースクロリンを山形大学鳴海博士より譲り受けることができた。そこで、数種の確立されたラットおよび人の悪性脳腫瘍細胞株に対して、同薬剤を用いたin vitro studyを行い、腫瘍殺細胞効果が得られるかを検討した。比較対象として、従来実験にて行ってきたtalaporfin sodiumによるPDTの殺細胞効果を用いている。結果として、人由来の悪性脳腫瘍株に対しては、PDTの方が殺細胞効果が高かったが、ラット由来の悪性脳腫瘍株に対してはPITの方が殺細胞効果が高かった。In vitro studyにおいては、免疫系の関与が乏しいため、純粋にマンノースクロリンを用いても光化学反応による悪性脳腫瘍細胞株の殺細胞効果が得られるという結果を示したに過ぎないが、これらの知見は悪性脳腫瘍研究における世界初の知見であり、論文として公表することができている。 Shinoda Y, Takahashi T, Akimoto J et al: Comparative photodynamic therapy cytotoxicity of mannose-conjugated chlorin and talaporfin sodium in cultured human and rat cells. J Toxicol Sci 42(1), 111-119, 2017
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今後の研究の推進方策 |
Mannose-conjugated chlorineを用いたPITの殺細胞効果をin vivo modelで検証する実験系をすでに確立している。Balb C nude mouse、およびBalb c mouseの下肢皮下に、ラット由来の悪性髄膜腫細胞株 KMJ-Y cellを1x106個移植し、腫瘍増殖曲線をすでに確立している。移植後2週間において5x5mm径の皮下腫瘍が形成され、漸次増大し、移植後6週の時点でマウス腫瘍volumeは20x20mmを超えることとなった。Sacrificeしたマウスから得られた腫瘍組織は、著明な壊死や血管増殖を伴う悪性髄膜腫組織であり、Balb Cに移植した腫瘍には多数のマクロファージが浸潤していることを抗CD68抗体を用いた免疫染色で確認している。 今後は両マウスに対する皮下移植モデルに対し、移植2週間の時点で、一定量のtalaporfin sodium、およびmannose-conjugate chlorineを投与し、局所に一定エネルギーのレーザ照射を行うことによるin vitroでの腫瘍制御効果を比較研究する。解析方法は一般的な病理形態的解析に加え、免疫組織化学的検討、flow cytometerを用いた増殖相解析、apoptosis解析を行う。さらにレーザ照射後の経時的な凍結組織からDNAを抽出し、腫瘍増殖制御の過程で変化している遺伝子発現を同定し、PDTおよびPITの作用機序の解明を図りたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度に行う動物実験の経費として用いる予定である。具体的にはBalb Cマウス購入費用、各種病理組織検体検索に用いる、薬剤や抗体などに使用する。
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