研究課題
近年、急性脊髄損傷に対して造血系サイトカイン(顆粒球コロニー刺激因子G-CSF/エリスロポイエチンEPO)が注目を集めている。私たちは慢性脊髄圧迫モデルにおいてG-CSFが著効することを明らかにし、EPOにおいても良好な治療効果を示しつつある。「圧迫性脊髄症」と「頸椎外傷」からなる非骨傷性頸髄損傷において、これらの造血系サイトカインは奏功する可能性が高く、臨床上の安全性も高い。ラット慢性脊髄圧迫モデルおよび非骨傷性頸髄損傷モデルを用いて、同損傷に対するこれらの造血系サイトカインの効果を明らかにし、最善の治療基盤を作ることを目的とした。H29年度は、EPOによる慢性脊髄圧迫モデルに対する効果を検討した。慢性圧迫によるミエロパチー進行時(慢性圧迫後7週)において、EPO(5000iu/kg)では著明な運動機能改善を認めた(P<0.001)。運動機能改善効果は、投与後3週を最大として、5週目より徐々に低下した。しかし、EPO 群では16週目でも、コントロール群(生食投与)に比べて有意に運動機能を保持した(P<0.0001)。前角運動ニューロンは、コントロール群に比べて有意に細胞数が温存された(P<0.0001)。TUNEL法によるアポトーシス細胞の評価では、コントロール群に比べて有意に少なかった(P<0.0001)。脊髄組織のEPO濃度を測定したところ、EPO投与群で有意に組織濃度が高かった。これにより、EPOは造血効果による血流改善のみならず、EPO自体がニューロンに対して直接機能改善、保護作用を有していることが示唆された。現在これらの成果を、近日中に論文投稿する予定である。この結果をもって、G-CSF投与およびEPO投与による非骨傷性頚髄損傷モデルでの治療実験を開始した。
2: おおむね順調に進展している
圧迫性脊髄症に対するエリスロポイエチンの効果は明らかとなり、近日中に論文投稿予定である。G-CSFおよびEPOの治療比較実験も開始している。
G-CSF投与およびEPO投与による慢性脊髄および圧迫モデル非骨傷性頚髄損傷モデルでの比較治療実験を開始し始めている。非骨傷性頚髄損傷モデルについては、慢性脊髄圧迫モデルを作成し、6週目に後屈負荷を加え、非骨傷性頸髄損傷を誘発する。下肢運動機能が低下したことが確認できたものを非骨傷性頸髄損傷モデルとする。それぞれのモデルについて、G-CSF群(G-CSF 15ug/kg/mL 5日/週 皮下注)、 EPO群(EPO 5000iu/kg/ml 3日/週 皮下注)、G-CSF+EPO群 (G-CSF 15ug/kg/mL 5日/週+EPO 5000iu;/kg/ml 3日/週 皮下注) 、コントロール群(生食 1ml 5日/週 皮下注) に振り分ける。運動機能評価(1週毎)(脚力、ローターロッド)、病理学的評価(HE染色、KB染色、IMAGE Jによる挫傷部のマッピング、前角細胞数のカウント)及び、電気生理学的評価(神経伝導速度と後脚大腿における運動誘発電位)を行う。各群で運動機能評価、病理学的評価、電気生理評価を比較検討し、より至適な薬物治療の組み合わせと投与法を求める。以上をもとに手術治療との相乗効果の可能性を見いだす。手術(減圧術)単独群、薬物治療群(至適G-CSF/EPO群)、手術+薬物治療群に振り分け、最終的な至適治療法を見いだす。
H29年度はこれまでの動物実験に対する解析に経費を割いたが、各種抗体や特殊試薬などの一部は、従来備わっていたものが流用できたため、新規購入を要せず、次年度使用が生じた。H30年度以降は新規治療動物モデル系が運用されるため、それに充当する予定である。
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脊髄外科
巻: 32 ページ: 印刷中