研究課題/領域番号 |
17K10908
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
中島 円 順天堂大学, 医学部, 准教授 (50317450)
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研究分担者 |
宮嶋 雅一 順天堂大学, 医学部, 先任准教授 (60200177)
新井 一 順天堂大学, 医学部, 教授 (70167229)
西村 欣也 順天堂大学, 医学部, 教授 (80164581)
菅野 秀宣 順天堂大学, 医学部, 准教授 (90265992)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 扁桃体腫大 / 側頭葉てんかん / てんかん原生 / ロイシンリッチα2グリコプロテイン / ピロカルピン酸 |
研究実績の概要 |
本研究は成人(高齢者)二次性側頭葉てんかんおよび関連する認知機能障害に対する病態解析と糖化蛋白の発現 量を調整してんかん原性形成抑止による疾患予防治療を確立することを目的としている。CAG-loxP-GFP-loxP-LRG1遺伝子導入マウスを用いたピロカルピン酸てんかんモデルによる成人二次性てんかん原性形成に対する分子生物学的及び電気生理学的な解析より、Leucine-rich α2 glycoprotein (LRG1)の脳内発現による神経細胞の活動電位の低下、慢性炎症の抑止を実証する。一方、薬剤難治性に経過した扁桃体腫大型側頭葉てんかんに着目し、摘出病理組織の分子生物学的な分析 から新たな側頭葉てんかんの病型分類を構築し、LRG1発現量の後方視的な観察より治療法を確立する。 当該年度に実施した研究は、扁桃体腫大を伴う側頭葉てんかん(TLE-AE)において本病態の症候学的・電気生理学的特徴と手術成績を検討した。TLE-AE11 例において症候学的に発作型、発作症状、発作頻度、記憶機能(WMS-R)を検討項目とし、電気生理学的に頭皮ビデオ脳波所見におけるてんかん波局在の確認を行い、頭蓋内電極留置から脳波解析を行った。慢性皮質脳波所見から発作起始部位を①海馬(H群)、②海馬・扁桃体(HA群)、③扁桃体(A群)に分類した。TLE-AE では全例で複雑部分発作を主とする発作が比較的頻回に呈していたが、記憶機能は保たれていた。慢性皮質脳波所見における発作起始部位はH群が 4 例(50%)、HA群が3 例(38%)、A群が 1 例(12%)であった。結果TLE-AE ではてんかん性焦点は後天的に海馬にてんかん原生を獲得していることを突き止めた。 扁桃体腫大型側頭葉てんかんがLRGが海馬における抑止効果を確認する有用なてんかん型であることを確認した。今後切除検体に対する免疫染色を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
難治に経過した扁桃体腫大型側頭葉てんかん患者から得られたてんかん焦点病巣に対し、病理学的解析を進めた。構造的には皮質形成異常type1と異なり、dysmorphic neuronやballoon cellなどは認めらず、特別な組織学的変化は認められなかった。つまり腫大した扁桃体にはsomatic mutationを反映した神経細胞の異型性は見られず、またdysplasticな所見も無かった。また海馬硬化症にあるような細胞脱落の所見も無かった。今年度我々は、扁桃体腫大型側頭葉てんかんを脳波解析によるてんかん焦点部位、すなわちてんかん原生部位より①海馬(H群)、②海馬・扁桃体(HA群)、③扁桃体(A群)に分類し、ほぼ全例に海馬が後天的にてんかん原生を獲得している事実を突き止めた。これまで病理組織学的に慢性炎症より考察した文献報告はないが、局所的にHMGB1- Toll like r eceptor (TLR) 4 pathwayに代表される炎症性メディエーターによる炎症増幅サイクルが働き、慢性炎症環境が さらにてんかん発作を誘導してんかん原性形成に関与していると推察され、今後病理学的な手法解析により、従来の海馬硬化型側頭葉 てんかんとは異なる新たな側頭葉てんかんの病型分類を構築し治療法を確立し得ると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
ピロカルピン酸による慢性側頭葉てんかんモデルマウスを安定供給されるCAG-loxP-GFP-loxP-LRG1遺伝子導入マウスとWild typeにおいて作成し、マウスは認知行動生理学的な解析と長期増強(LTP)など電気生理学的に海馬におけるLRG 発現量による神経細胞発火抑制をフィールドパッチクランプ法で測定している。認知行動試験及び電気生理学的には、てんかんモデルとして重症度が高くないものについては、化学シナプスの高頻度刺激の後に起きるシナプス結合強度の持続的増加(LTP)がコントロール群と有意差がないことが判明している。実臨床における扁桃体腫大型側頭葉てんかん患者が、記憶を主とする高次機能が保たれていることを今年度明らかにしたが、今後LRG発現を海馬を中心とした焦点切除部位の免疫組織学的な検討より、LRGが本てんかん病態にどのように関与し、また海馬にてんかん原生があるにもかかわらず、記銘力障害を来さないメカニズムを明らかにすることができる可能性がある。今後の研究で免疫組織染色による病理学的変化を解析 し、さらに動物てんかんモデルによる電気生理学的、行動生理学的な検証から、LRG1の発現量と抗炎症作用、抗てんかん作用を明らかにし、扁桃体腫大型側頭葉てんかんのメカニズムの究明に至る。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度では、3年の研究計画の初年度ということもあり、物品購入費など多くを計上したが、研究の推進に際し、これまでの実験環境がある程度整っていたことを反映し、物品購入費など諸経費を抑えることができた。少額ではあるが、次年度へ研究費を回すことで、より充実した研究ができることが期待できる。
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