研究実績の概要 |
放射線照射後の脊椎腫瘍では,本来は腫瘍に対するバリア組織である硬膜への浸潤や,術後の硬膜内再発を認めることがある.その原因として,放射線照射による硬膜バリア機構の破綻が推察され,本研究では腫瘍脊髄圧迫モデルマウスを作成し,本仮説を検証した. マウスを用い,20Gyの単回照射を行う群(照射群)と非照射群に分け,さらに照射群を照射後6週の群(早期群)と12週の群(晩期群)に分けた.各群に対し,後方より椎弓の背側骨皮質を掘削して,マウス乳癌株(MMT)または骨肉腫株(LM8)を移植した.生着した腫瘍が脊髄を圧迫して両後肢麻痺となった時点で屠殺した.各群10例ずつ標本を作製し,HE染色を行って病理学的評価を行った.硬膜への腫瘍の浸潤度を,浸潤のないもの(grade 0)から強い浸潤を有するもの(grade 2)まで,3段階に分けて評価した.またそれらと別に,照射後12週における硬膜表面を電子顕微鏡で観察した. 各群(非照射群,早期群,晩期群)における硬膜への腫瘍浸潤度の分布は,MMTでそれぞれ grade 0=(10,8,5),grade 1=(0,2,3),grade 2=(0,0,2),LM8でgrade 0=(8,7,3),grade 1=(2,1,3),grade 2=(0,2,4)となり,非照射群と晩期群において有意差を認めた(p<0.05).電子顕微鏡での観察では,照射群の硬膜のコラーゲン線維の変性と配列不整,欠損孔が確認された. 照射群において,腫瘍の硬膜内浸潤は有意に増加し,仮説を支持する現象が確認された.電子顕微鏡の観察で硬膜の物理的バリアの破綻が確認され,腫瘍が硬膜内へ浸潤する要因と考えられた. 悪性腫瘍の硬膜内浸潤は局所制御のみならず,生命予後をも著しく不良とするため,本研究で得られた知見は背椎腫瘍の治療において考慮すべき重要な要素と考えられた.
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