研究実績の概要 |
ラット腰椎椎間関節切除を行い、椎間板組織に直接侵襲を加えない、椎間板変性モデルを作成し、寒冷反復(SART)ストレスを加え、経時的に痛覚過敏、疼痛関連行動を定量的に計測した。処置後、7-8週で、痛覚過敏ならびに腰痛に伴う歩行異常が、CatWalk法を用いた歩行解析で認められた。このモデルでは血中副腎皮質刺激ホルモンおよびコルチコステロンは低値で、腰髄後根神経節のDNA arrayの結果ではInflammatory response, G-protein coupled receptor, α6β4 Integrin signalのパスウェイに特異的な遺伝子が多く含まれていた。本モデルの疼痛発現には炎症とミエリン障害が寄与している可能性を示した。SARTストレスは椎間関節切除13日後以降、拘束ストレスは椎間関節切除41日後以降にそれぞれ体重増加抑制がみられたが、拘束ストレスでは歩行異常の増悪は認められなかった。腰椎椎間関節切除ラットにSARTストレスを負荷すると同時にノイロトロピン(NTP)を経口投与した。歩行異常出現後に罹患椎間板を摘出し、病理組織及びTNF-α、NGF、CGRPの発現とマクロファージ(Mφ)を免疫染色で評価した。線維輪の腹側外側で不規則な組織増生と線維の肥厚と層間の拡大、断裂が認められた。TNF-α、NGF、CGRP発現は線維輪外側部に増生した細胞で染色強度が有意に増強し、MφM1減少とMφM2増加の傾向が見られた。NTP投与で腰痛関連歩行異常及び痛覚過敏は改善し、TNF-α、NGF、CGRP染色強度は有意に減弱し、MφM1はNTP容量依存的に増加する傾向が認められた。新しい椎間版変性モデルを確立し、ストレスによる痛みの増強機序を解明するための一助を示した。さらに慢性腰痛に対する運動や薬物の有用性を検証し得る可能性が高い。
|