研究課題/領域番号 |
17K10940
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
高平 尚伸 北里大学, 医療衛生学部, 教授 (70236347)
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研究分担者 |
坂本 美喜 北里大学, 医療衛生学部, 講師 (40365177)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 深部静脈血栓症 / 肺血栓塞栓症 / 静脈血栓塞栓症 / 静脈還流 / 呼吸 / 理学的予防法 / 足関節自動運動 / 間欠的空気圧迫装置 |
研究実績の概要 |
無電源の「深部静脈血栓症(DVT)予防具」(発明者:高平尚伸, 2018.3.2.特許第6296616号)を、研究業務委託企業により作成してバージョン4まで試作品を製作し、本装置の安全性ならびに装置使用時の足関節運動が下肢深部静脈血流に与える有効性を検証した。対象は健常若年者男性のみ20名であった。血行動態として、右浅大腿静脈の最大静脈血流速度(PV)、血流量(FV)、血管横断面積、本装置の下腿にかかる圧迫圧を測定した。その結果、各条件での右浅大腿静脈のPVは安静時より全ての測定条件で有意に増加した。本装置装着下での足関節運動時のPVは足関節運動単独時のPVと比べ有意差を認めなかった。これは、弾性ストッキングの使用によってかかる下腿への圧迫圧は通常20~30mmHgであるが、本測定は足関節運動を行う前の初期圧を20mmHgで統一した。本装置装着による足関節運動時の圧迫圧を今後調整する必要があることがわかった。また、これまでの研究成果を以下の論文にて発表した。Effects of forced deep breathing on blood flow velocity in the femoral vein: Developing a new physical prophylaxis for DVT in patients with plaster cast immobilization of the lower limb. Thromb Res. 162:53-59. 2018. Intense Triceps Surae Contraction Increases Lower Extremity Venous Blood Flow. Progress in Rehabilitation Medicine 2017; Vol. 2.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
無電源の深部静脈予防装置の試作品のバージョン5での足関節自動運動、IPCD(間欠的空気圧迫装置)を用いて、前年度の課題を解決するべく、①初期圧と足関節運動時の圧迫圧との差、②圧迫位置の検証を行う予定である。さらに、各々の強度と回数とタイミングと休息時間などの検索を行う予定である。これらの組み合わせにより最適な深部静脈血流促進効果の検索を行う。対象者には血流の統制期間として10分間以上の安静時間を設けたのち、ベースライン(BL)として安静時の血流測定を行う。次に、1回目の動作課題を実施し、動作直後の血流測定を行う。測定後、同じ姿勢にて安静時間を設け、血流がBLまで回復したことを確認する。その後、再び同じ設定条件にて2回目の動作課題を実施し、動作直後の血流測定を行う。血流がBLまで回復したことを確認した後、設定条件を変えた動作課題を行い、血流測定を実施する。全てのPVは2回の動作課題直後の平均値とする。なお、IPCDは最新版のACCP(米国のガイドライン)で理学的予防法として唯一推奨されている有電源の携帯型間欠的空気圧迫装置:Active Careを用い、同様の測定を行う。このデータをコントロールとして比較することで非劣性試験を併せて行う。これにより本研究の妥当性を担保させる。なお、無電源の深部静脈予防装置のバージョン4からバージョン5への改良点は以下である。①装置の下腿カフの外側に非伸縮性素材を付着した(二重構造)。②装置を対象者に装着後、装置の下腿カフの上から非伸縮性のレザーを巻きつけた(閉鎖性構造)。③付属アダプタを用いて圧迫位置を変更可能にした(可変式構造)。④装置の足部ベルクロ部を取り外し可能にした(簡便性・汎用性構造)。⑤装置のずり落ち防止のため大腿部へ補助ベルトをつけた(安定性構造)。⑥空気流動チューブを細く頑丈にした(小型化)。
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今後の研究の推進方策 |
静脈血栓塞栓症(VTE)はエコノミークラス症候群や中越沖地震で脚光を浴びた社会的注目度の高い予防可能な致死的疾患である。また、人工関節手術などの外科領域における重大な合併症の一つである。VTEは下肢の静脈内に生じた血栓(深部静脈血栓症:DVT)が遊離し、肺動脈に詰まり(肺血栓塞栓症:PTE)死に至る連続した病態である。国内外においては予防ガイドラインが散見されるが、理学的予防法による効果的な方法についてはエビデンスが乏しい。2011年に未曾有の東日本大震災は発生し、今後予防の薬剤や有電源器具の用意がない被災地も含めた施設や病院での新たな予防法の提案は喫緊の課題である。これまで申請者は、抵抗を加えた足関節自動運動法の有効性を示し(2016)、一方国内外の当該領域に追随を許すことなくより安全かつ効果的に静脈血流を促進させる理学的予防法に着眼した世界初の新たな装置となる無電源のVTE予防装置を発明(2015)し、特許査定(特許第6296616号.2018)を受けた。そこで、本装置の実用化を実現するため、バージョンアップした試作品を用いて適正な強度や回数を調査し、有効性と安全性の効果を検証する。 具体的には、2017年度の結果から本装置によりPVを増加させるには、足関節運動開始前の初期圧と運動時の圧迫圧の差を大きく、また足関節運動前の初期圧を20mmHg以下で圧差を大きく、下腿カフ幅を広く、血流を再度測定すること、呼吸法との適切な協調化考えている。本法は静脈血流停滞を改善させ、安全かつ有効な方法として期待できる。この方法の有効性が示されれば、VTEに対する新たな理学的予防法の一端を確立でき、エビデンスに基づく予防法を提案できる。また、広く致死的PTE予防への貢献が可能となり、医療安全管理上わが国に大きく貢献できうる。
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次年度使用額が生じた理由 |
2017年11月の出張旅費に充当する費用が、現時点で未精算のため未使用額となった。
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