研究実績の概要 |
無電源の「深部静脈血栓症(DVT)予防具」(発明者:高平尚伸, 2018.3.2.特許第6296616号)を,研究業務委託企業により作成してアップデートしたバージョンの試作品を製作した.一方,携帯型の間欠的空気圧迫装置(IPC)装置は歩行やAAE等の運動中にもIPCの実施を可能にするが,運動により血流が促進されている状態でのIPCの影響については不明である.そこで2018年度は,IPCが足関節自動運動(AAE)による下肢浅大腿静脈の最大静脈血流速度(PV)の増加をさらに促進するか否か検証することを目的とした.対象は健常若年者20名(男女各10名,平均21.7±1.6歳)とした.測定条件は,底屈(踵上げ)運動,背屈(つま先上げ)運動,IPC単独,IPC下での底屈運動,およびIPC下での背屈運動の5条件とした.5つの測定条件を無作為な順序で行い,各条件間に10分間の安静を設けた.その結果, PVにおいて,全ての測定条件は安静時の4~8倍に増加した.またIPC下での底屈・背屈運動時のPVは,足関節底屈・背屈運動単独実施時と比べて約1.7~2倍に増加した.すなわち,IPCは下腿筋ポンプ作用の静脈還流促進効果をより上昇させた.これまで,院内歩行が可能な人工股関節置換術(THA)術後患者でもDVTリスクを有すること,大腿骨近位部骨折患者の歩行能力は術後には同年代健常者の水準より低いことなどが報告されている.歩行能力の低下は歩行中の健常な足関節可動の下腿筋ポンプ作用による静脈還流促進効果を抑制する.したがって携帯型IPC装置は院内歩行可能な患者の静脈還流を上昇させ,DVTリスクを減少させる可能性があると考えられた.結論として,AAE中のIPCはAAEやIPC単独時に比べ下肢深部静脈のPVをより増加させたことから,IPCとAAEの併用はより有用なDVT予防となる可能性がある.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度は,上述の通り, 携帯型の間欠的空気圧迫装置(IPC)装置は歩行やAAE等の運動中にもIPCの実施を可能にするが,運動により血流が促進されている状態において,さらにIPCが血流に及ぼす影響については不明であったため2018年度は,IPCがAAEによる下肢のPVの増加をさらに促進するか否か検証することを目的としたため,昨年の報告書で記載した内容の研究の一段階手前で確認的検証を行った.したがって,現在進行中の研究は,無電源の深部静脈予防装置の試作品のバージョン5での足関節自動運動,IPCD(間欠的空気圧迫装置)を用いて,前年度の課題を解決するべく,①初期圧と足関節運動時の圧迫圧との差,②圧迫位置の検証を行っている,さらに,各々の強度と回数とタイミングと休息時間などの検索を行う予定である.これらの組み合わせにより最適な深部静脈血流促進効果の検索を行う.対象者には血流の統制期間として10分間以上の安静時間を設けたのち,ベースライン(BL)として安静時の血流測定を行う.次に,1回目の動作課題を実施し,動作直後の血流測定を行う.測定後,同じ姿勢にて安静時間を設け,血流がBLまで回復したことを確認する.その後,再び同じ設定条件にて2回目の動作課題を実施し,動作直後の血流測定を行う.血流がBLまで回復したことを確認した後,設定条件を変えた動作課題を行い,血流測定を実施する.全てのPVは2回の動作課題直後の平均値とする.なお,IPCDは最新版のACCP(米国のガイドライン)で理学的予防法として唯一推奨されている有電源の携帯型間欠的空気圧迫装置:Active Care (Zimmer-Biomet社)を用い,同様の測定を行う.このデータをコントロールとして比較することで非劣性試験を併せて行う.これにより本研究の妥当性を担保させる.
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今後の研究の推進方策 |
これまでの結果から今後,足底部を踏んだ時の安定性がより向上するよう足底部の形状を検討することにより,本装置使用時のPVが現時点よりも更に増加し,IPCDを装着した時の足関節運動時のPVに近づきより実用化に近づくと思われた.一方,試作品の下腿圧迫部を装着する高さ(アキレス腱部,腓腹筋筋腱移行部,最大下腿周径部)による,試作品使用時の静脈血流速度の変化,および②立位で試作品装着側下肢への荷重量の大きさによる試作品使用時の静脈血流速度の変化を検証する方針である.そして,今後,ライセンス契約に向けて進め製品化し,実用化を予定したい.
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