研究課題
今日の急激な超高齢社会の到来を受けて、筋肉量および筋力が低下したサルコペニアの患者数は増加の一途をたどっている。筋萎縮は筋量および筋力低下の大きな要因の1つであり、ロコモーティブシンドロームの原因としてその対策は重要である。我々は筋萎縮の1つである不動性筋萎縮において、転写因子であるSmad2およびSmad3がタンパク質レベルで萎縮筋において蓄積すること、これらの遺伝子欠損により不動性筋萎縮モデルにおける筋萎縮を完全にブロックできることを見出している(J Biol Chem. 2016)。また、Smad2/3のタンパク質レベルでの蓄積は、成長因子の1つであるIGF1のシグナルにより抑制されることを見出している(J Biol Chem. 2016)。本研究では、これらの先行知見をもとに、Smadを阻害する阻害剤を開発することで、不動性筋萎縮を抑制する治療法を開発することとした。まず、Smadが真に不動性筋萎縮の治療標的となり得るかを検証するため、Smad2/3をアダルトで欠損させるため、新規にSmad3 floxマウスの作成を行い、その樹立に成功した。Smad2 floxマウスはすでに導入しており、アダルトにおいてSmad2/3を欠損させるコンディショナルノックアウトマウスの作成を進めており、当該マウスが得られ次第、不動性筋萎縮モデルの作成を行い、Smad2/3抑制による効果を検証する。また、並行して人為的にSmad2/3を抑制するため、Smad2/3の阻害剤の開発を進めている。すでに、in silicoスクリーニングにて複数の候補化合物を得ており、これらの化合物のin vitroにおいて筋萎縮を模倣した培養モデルにおいてSmadを阻害する活性を有する化合物を同定している。IGF1については、その減弱が筋萎縮に直結することを見出し、現在論文投稿中である。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、不動性筋萎縮防止のための方法を開発するために、Smadを標的とした治療法の開発を行うことを目的としている。このために、まずSmad2/3が治療標的となり得るかを確認するため、Smad2/3のみが欠損するモデルマウスの開発を行い、すでにその作成に成功している。このことにより、Smad2/3が単独で治療標的となり得るかを検証することが可能になる。すでに、出生時からSmad2/3を筋特異的に欠損したマウスモデルでは不動性筋萎縮を防止できることを確認しており(J Biol Chem. 2016)、アダルトにおける全身的な阻害による治療標的の可能性を検証できる環境が整った。このことは、Smad2/3阻害剤を開発し、投与試験を行う上で必要なプロセスと考えている。また、並行してSmadの阻害剤の開発も進んでおり、すでにin silicoスクリーニングの手法を用いて候補化合物の同定に至っていることも、概ね順調に進展している理由と考えている。また、Smad阻害剤の開発では、ドラッグリポジショニングの手法でも開発を進めることとし、現在ライブラリーを調整中である。薬剤のスクリーニングについては、in silicoスクリーニングのときと同じ方法が使えるので、進展が期待できると考えている。Smadの制御法に関するIGF1シグナルからの制御機構についても、すでにIGF1レベルの低下による筋萎縮の発症、Smadの萎縮筋における蓄積を確認できていることも、本研究が概ね順調に進展していると評価できる点であると考えている。
今後は、アダルトでSmad2/3を欠失させた新規マウスモデルを用いた不動性筋萎縮モデル動物の解析を行い、Smadがアダルトで不動性筋萎縮予防のための治療標的となり得ることを検証する。また、in silicoスクリーニングで同定されたSmad阻害剤について、in vitroでの検証を進め、さらにin vivoの不動性筋萎縮モデルへの投与試験を行い、筋萎縮予防効果を検証する。同様に、ドラッグリポジショニングライブラリーからのスクリーニングでも、in vitroでの検証から、in vivoの不動性筋萎縮モデルへの投与試験を進め、いずれの方法からも、不動性筋萎縮を抑制する薬剤の開発を進めたいと考えている。また、IGF1からのアプローチについても、IGF1シグナルからのSmadの制御機構を解明し、やはり不動性筋萎縮の予防法の開発へと推進させる予定である。以上の方法により、不動性筋萎縮予防法の開発を進めたいと考えている。
すべて 2018
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件)
J Arthroplasty
巻: 33 ページ: 925-930
10.1016/j.arth.2017.10.014
J Bone Miner Metab
巻: - ページ: -
10.1007/s00774-017-0890-z