研究課題
筋萎縮は筋力の低下などから転倒のリスクとなり、特に骨粗鬆症を発症した高齢者においては、脆弱性骨折の発生から、日常生活動作に重大な支障を来す可能性のある重大な課題である。また比較的若年者においても、骨折等で行うギプス固定などによって患肢が固定されると、筋萎縮を引き起こし、やはり筋力の低下やスポーツ選手においては復帰の遅延につながるなど、やはり解決すべき課題といえる。これまでに、不動性筋萎縮モデルマウスを用いた解析により、不動性に萎縮する筋において転写因子であるSmad2およびSmad3がタンパク質レベルで蓄積すること、筋特異的なSmad2とSmad3の二重欠損マウスでは不動性筋萎縮をほぼ完全に回避できることを見出している。このことを受けて、本研究ではSmad2とSmad3がアダルトにおいて不動性筋萎縮の治療標的となり得るか、という点を明らかにすることとした。投薬によりSmad2とSmad3を抑制するには、筋のみならず全身的にSmad2とSmad3を抑制することとなる。そこで、まずアダルトにおいて全身的にSmad2とSmad3を抑制した際に、致命的な有害事象が発生しないか、ということを確認するため、Smad3のコンディショナルノックアウト(Smad3 cKO)を新規に樹立し、すでに入手済みのSmad2のコンディショナルノックアウトと交配し、アダルトにおいて誘導性に全身的にSmad2とSmad3を欠損させるSmad2/3 cKOを作成することとした。Smad3 cKOについては、すでに樹立を完了し、Smad2/3 cKOの作成を進めている。また、並行してSmad2/3を阻害することが可能な低分子化合物を得るため、ドラッグライブラリーからドラッグリポジショニングにより新たにSmad2/3阻害薬をスクリーニングすることとし、すでに複数のヒット化合物を得ている。
2: おおむね順調に進展している
筋萎縮、特に不動性筋萎縮については、これまで明らかな治療標的が同定されておらず、したがって有効な治療も開発されていない。申請者はこれまでの解析によりSmad2とSmad3、特にSmad3が不動性筋萎縮の治療標的となり得ることを明らかにしている。そこで、Smad3 cKOマウスを新規に作出するとともに、転写標的因子が共通であるSmad2についても、合わせて筋萎縮予防に対する有効性を検証することとした。まず、Smad3 cKOマウスについては、相同組み替えから胚細胞の仮親への移植、産仔のgenotypingから当該マウスを同定し、その後の交配によりgerm lineにのるSmad3 floxマウスを得ることに成功した。Smad3 floxマウスと、すでに入手済みのSmad2 floxマウスを用いて、アダルトにおいて誘導性にSmad2/3を欠損させ得るSmad2/3 cKOマウスの作出を進めており、ほどなくSmad2/3 cKOマウスが得られる予定のところまで交配が進んでいる。また、Smad2/3を阻害する活性のある低分子化合物を得るためドラッグリポジショニングのためのドラッグライブラリーからのスクリーニングも並行して進めており、すでに複数の候補化合物を得ることに成功した。さらに、Smad3を阻害する可能性のある低分子化合物についてはin silico screeningによっても同定を進めており、こちらもすでに複数の化合物を得ることに成功している。以上のことから、研究がおおむね順調に進展していると考えている。
今後は、Smad2/3 cKOマウスが得られ次第、アダルトにおいて誘導性にSmad2/3の抑制を行い、致死や劇的な体重減少等の致命的な有害事象がおこらないか観察を行うとともに、様々な臓器における状態を確認することで、アダルトにおいてSmad2/3が治療標的となり得るか、評価を行う。その上で、Smad2/3 cKOマウスにおいて不動性筋萎縮モデルの作出を行い、アダルトにおける全身的なSmad2/3の抑制により、不動性筋萎縮防止効果がどの程度得られるかを検証する。また、不動性筋萎縮の発症により、骨の萎縮もおこることを確認していることから、Smad2/3 cKOマウスにおける骨の変化についても解析を行う予定である。ドラッグリポジショニングのためのドラッグライブラリーからのスクリーニングで得られた複数の化合物については、まずは筋芽細胞を用いた不動性筋萎縮を分子的な挙動として再現するモデル系をin vitroにおいて立ち上げており、その系を使ってSmad2/3の標的因子の発現阻害効果やSmad2/3のリン酸化阻害効果などを検証する。Smad2/3に対する阻害効果がin vitroで確認できた化合物については、in vivoの不動性筋萎縮において筋萎縮予防効果を検証する。また、in silico screeningによって得られた低分子化合物について同様の解析を行い、不動性筋萎縮の予防効果が得られる化合物を同定する。これらの解析で不動性筋萎縮の予防効果が得られたものについては、容量設定や有害事象の有無の検証などを進めていく。
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