研究課題
脊髄損傷後の神経再生に対し阻害作用を持つコンドロイチン硫酸(CS)発現を、新しいバイオマテリアル・フィブロインスポンジを用いて抑制することにより、再生環境を整える基礎研究を推進することを目的としてきた。さらにiPS細胞を移植部に保持するための基材として、上記の再生環境整備と併用したシステムをマウスモデルにて遂行している。1)CSGalNacT1 siRNA・合成酵素阻害剤(化合物)のDDS効果と生体内炎症性解析siRNAノックダウンによって治療効果が上がることはすでに実証してきたが、CS発現を抑えることで、別の糖鎖であるヘパラン硫酸(HS)が誘導され、神経伸長活性を増強することで再生をさらに促進する。この遺伝子発現制御の一端を明らかにすることができた。炎症性サイトカインおよび抗炎症性サイトカインがこれら糖鎖合成遺伝子の発現制御に効いていること、そのシグナル伝達経路についてRT-PCRによる網羅的発現解析から示した。 さらに、フィブロインスポンジを徐放剤として用いたsiRNA投与で、炎症領域特異的に蛍光標識核酸がデリバリーされることも確認した。炎症が起きている組織領域では盛んな核酸取り込みが起こること、それを利用したDDSの可能性を示すことができた。2) iPS細胞および多くの細胞(神経系細胞・骨細胞)が長期にフィブロインと相互作用した際に、細胞分化能や細胞の性質が変化しないことを確認した。これは生体材料としての安定性を確認することにつながった。さらに、この生体材料でCSGalNacT1 を発現抑制するあるいは遺伝子発現を止めた場合の骨形成に与える影響を発生学的に追跡し解析した(論文投稿中)。また炎症との相関をみるために脊髄損傷だけではなく皮膚再生に与える影響をサイトカインの遺伝子発現の網羅的解析から遂行を開始している。
1: 当初の計画以上に進展している
当初計画にあげていた核酸医薬のDDSに関しては、炎症領域では盛んな核酸取り込みが起こること、それを利用したDDSの可能性を示すことができたことは 今後の研究においても大きな進展となった。そのメカニズムを明らかにするために細胞のピノサイトーシスあるいは核酸取り込み能の定量解析の方法を確立できたため、多くの汎用性を持たせることが可能となった。さらに、骨形成についても詳細な発生学的解析を進めることができ、計画以上に興味深い知見を得ることができた。
研究成果に則り、脊髄損傷治療においては、当該基材をの長期(1年間以上)留置したマウスのさらに詳細な追跡解析を免疫組織から解析する。 さらに、脊髄損傷後の損傷部へのiPS細胞および幹細胞移植を行い、細胞の留置能を検証する。 さらに脊髄損傷後の慢性期患者を想定し、脊髄損傷後3か月以上経過したマウスを用いる。この脊髄損傷部の線維性瘢痕を除去後、実際の脊損後慢性期患者治療を想定し瘢痕部を除去して移植領域を確保する手技を確立し、iPS細胞移植を行う。 核酸治療での可能性と材料としてのDDSおよび細胞留置を詳細に解析する
すべて 2017 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
Neurochem Int.
巻: 17 ページ: 0197-0186
10.1016/j.neuint.2017.10.001.
Mol Brain.
巻: 10 ページ: 47
10.1186/s13041-017-0328-5.
Sci Rep.
巻: 7 ページ: 12646.
10.1038/s41598-017-04007-x.
J Cell Sci.
巻: 130 ページ: 2631-2643
10.1242/jcs.202119.
J Neurosci.
巻: 37 ページ: 4046-4064
10.1523/JNEUROSCI.3319-16.2017.