研究課題
中枢神経の損傷および脊髄損傷後に対しては、未だ根本治療法がない。我々は困難とされてきたこれら神経再生に向けて、神経再生阻害因子を制御することを中心とした治療方向性を検討している。脊髄損傷後など中枢神経系での外的障害モデルでは、神経軸索の再生を阻害するコンドロイチン硫酸(CS)の発現が最大のバリアーとなる。我々は、新しい遺伝子治療とバイオマテリアルを用いてこの阻害因子CS発現を抑制することによる再生環境解析とともに、応用に向けた研究を推進してきた。18年度まではCSがいかに生体組織の炎症系の制御を行っているかという大きな課題を明確化し、本年度には核酸医薬の絞り込みに成功し、この核酸医薬のデリバリーの臨床応用を目指したメカニズム解明と方法論の確立進めた。1)CS発現抑制による生理機能と核酸医薬:CS発現を抑えることで、コラーゲンの配向と発現制御に関わっていた。つまりCS発現は炎症の後に続く組織線維化にも重要であること、さらには生体内の炎症性そのものにも関わることを見出している。CSにサイトカインがトラップされることで生体内の局所の炎症制御に関わることが明らかとなった(論文投稿中)。2)CS合成阻害のための核酸医薬のDDS解析:これまでフィブロインスポンジを徐放剤として用いたsiRNA投与にて、炎症領域特異的に蛍光標識核酸医薬がデリバリーされることも確認し、炎症におけるCS制御機構を検討してきた。新たに得られた新世代核酸医薬でのDDS効果を検討したところ、脊髄損傷において主に損傷炎症部に集まるマクロファージやアストロサイトに特異的に核酸医薬が取り込まれ、組織部位特異的に核酸医薬がデリバリーされた。機能するべき細胞で働くことを示し容易かつ安全性にも優れ応用展開に近づく。実際に脊髄損傷マウスモデルにて遠位(馬尾部など)への投与によっても、生理機能回復へ繋げられることが明確となった。
2: おおむね順調に進展している
当初計画であったCS発現と再生環境の相関についてはほぼ網羅して解析を行うことができた。また治療方向性に向けては、さまざまな基礎解析を踏まえて臨床に近づけるレベルに引き上げることができ、核酸医薬の効果と機能、安全性について確認を行うことができた。バイオマテリアルについては解析が一部止まっているものの、それに頼らないシステム構築が出来、想定以上の効果を上げることができている。
神経再生環境を整え、他の治療方向性である細胞移植や他剤との併用などについて検討を加える。とくにマテリアル関係では特許化と論文化を急ぐ。
現在、当該研究における材料系の解析を継続していることと、論文の最終とりまとめがあるため次年度使用とし、継続を進めている。
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