脊髄損傷をはじめとする中枢神経系損傷においては根本治療法がない。そのためiPS細胞をはじめとする様々な幹細胞移植再生治療が試みられるが、亜急性期および慢性期での治療適応は困難を極める。それは神経損傷部に生じる再生阻害因子であるコンドロイチン硫酸プロテオグリカンの発現とともに線維性瘢痕形成が最大のバリアとなってしまうためである。我々はこのコンドロイチン硫酸発現を阻害するマウスモデルから、上記治療のターゲットとしてこれらの発現を抑える核酸医薬のスクリーニングを開始した。その結果、マウスラットに適応できる核酸医薬を見出し、損傷後の生理機能回復に十分な作用を持つことを見出した。この核酸医薬のデリバリについても検討し、バイオマテリアルを利用した局所投与系の開発とともに、次世代修飾核酸医薬においてはこれら基材を必要とせずとも、神経組織炎症部に正しくドラッグデリバリーされることも見出した。これは損傷などによる炎症部への核酸医薬適応としても大きな効果があることを示唆する。さらに、ヒト遺伝子配列からの核酸医薬スクリーニングを推進して、ヒト治療応用に適応できる候補配列を得ることが出来た。これらを利用してさらに、マウスラットでの安全性試験も行いヒト応用につながる核酸医薬を得ることが出来た。 この過程で、コンドロイチン硫酸発現を中心とする糖鎖に結合するシナプスオーガナイザーの国際共同研究から、新たな人工キメラ分子によるシナプスコネクターの開発と応用展開に至った。このシナプスコネクターが脊髄損傷後の亜急性期での機能回復につながるという画期的な成果を上げることに至った(Science 2020)。これらを統合した神経損傷後治療の応用展開につなげることが出来た。
|