研究実績の概要 |
本研究は、①ラットを用いた動物実験 ②ヒト解剖用屍体を用いた組織学的研究より成る。 本年度は、実験①では、ラットに頸椎椎弓切除術を施行した実験群と椎弓後面まで展開した対照群を設定した。術前後に脊髄造影CTを撮像し、頚髄の後方移動量と両側C5-C8頚神経前糸の長さを計測すると、C5椎体中央レベルでの椎体-頚髄間距離は、術前が0.32mmであったが、術後3,10,14日後にはそれぞれ0.52mm、0.74mm、0.86mmと頚髄は徐々に後方に移動していた(p=0.002, p<0.001, p<0.001)。それに伴い各頚神経前糸は伸長され、術後14日時の伸長率はC5:125%、C6:148%、C7:126%、C8:119%であった。術前後に両側三角筋(ラットではC5,6支配)、上腕三頭筋(ラットではC7-T1支配)の運動誘発電位(MEP)における潜時を計測すると、実験群の三角筋MEP潜時は、術後すべての計測時で対照群より有意に遅延したが、上腕三頭筋のMEP潜時は術後10日以外は有意な差を認めなかった。これより新規動物モデルによる本研究では、脊髄の後方移動に伴い頚神経前糸、特にC6前糸が伸長され、三角筋のMEP潜時遅延が生じていたことから、C5麻痺の発症と硬膜管内での前糸の伸長との関連が示唆された。 実験②では屍体の頸椎椎弓を切除し硬膜背側を露呈し、頚神経根周囲の軟部組織を肉眼的に観察したところ、後縦靭帯の線維の一部が頚神経根の背側から神経を包み、神根の背側を覆っていた。覆う幅は高位によって異なり、頭側の神経根ほど覆う部分が大きくなっていた。このことより、頚髄が後方に移動すると、上位の頚神経では神経根は骨に強固に固着されているため、神経に伸長ストレスが加わり易く、下位の頚神経より麻痺が生じ易いことが示唆された。
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