研究課題/領域番号 |
17K10966
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
岩倉 崇 神戸大学, 医学部附属病院, その他 (60437473)
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研究分担者 |
新倉 隆宏 神戸大学, 医学研究科, 講師 (40448171)
李 相亮 昭和大学, 医学部, 講師 (40533732)
福井 友章 神戸大学, 医学部附属病院, 医員 (50437688)
大江 啓介 神戸大学, 医学部附属病院, 助教 (20514623)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 糖尿病 / 骨折 / 骨癒合不全 / 軟骨内骨化 |
研究実績の概要 |
糖尿病患者では、骨癒合不全の発生頻度が有意に高く、長期間の治療を要することが知られている。また糖尿病動物モデルでは、軟骨内骨化が阻害されていることが報告されている。我々は以前に炭酸ガス経皮吸収システムを使用することで動物実験(ラット大腿骨骨折モデル)において、骨折局所での酸素化、血流増加、血管新生を伴い軟骨内骨化が促進され、骨折治癒が促進することを証明した。そのため、炭酸ガス経皮吸収が糖尿病動物モデルにおいても軟骨内骨化促進を介して骨折治癒を促進させる可能性が高いと考えられる。本研究の目的は、糖尿病動物モデルにおいて炭酸ガス経皮吸収が骨折治癒を促進させるかを検討することである。本研究が非侵襲的な骨折促進剤としての治療手段につながれば、骨折治癒に不利である多くの糖尿病骨折患者の治療に大きな貢献ができると考える。 日本SLC社から雌の1型糖尿病ラット(streptozotocin誘発糖尿病ラット)を購入し、12週齢時、大腿骨に径1.25mmのキルシュナー鋼線を刺入した上で、三点支持台上で重錘を落下させ閉鎖性大腿骨横骨折モデルを作成した。炭酸ガスを週5回投与する炭酸ガス経皮吸収群と、対照群(炭酸ガス非吸収群)の2群に分けた。炭酸ガス経皮吸収群には、骨折肢に炭酸ガス経皮吸収促進ゲルを塗布しポリエチレン袋で密閉した上で、1回当たり20分間100%炭酸ガスを経皮吸収させた。一方、対照群に対しては、同ゲルを骨折肢に塗布するのみとした。 現在、骨折作成後14、21、28、42日サンプルを作成し単純X線写真およびマイクロCTを用いて骨癒合評価を行っている。サンプル数が少ない為、有意差を出す段階ではないが炭酸ガス経皮吸収群において骨癒合が進行している傾向が見られている。 糖尿病という骨折治療に不利な影響下においても炭酸ガス経皮吸収が、骨折治癒を促進させる可能性があることが示唆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
現在、当初の研究計画と比較しやや遅れて進行している。その最大の理由が局所における創部感染である。 研究開始当初は、易感染性である糖尿病動物モデルに対する確実な感染症予防対策が確立されておらず、創部感染を来すラットが多発した。創部感染を合併したラットでは、正常な骨折治癒過程を経ず、骨癒合の評価は不可能であった。術後の抗生剤投与量および方法が適切でなかったことが原因として考察される。また、糖尿病という疾病の性質上、通常のラットと比較し排泄物の量が多量になるため、ケージ内の清潔を保持することが困難な環境であったことも一因として挙げられる。以前に当グループの研究において糖尿病ラット骨折モデルを使用した経験があり、同様のプロトコールで抗生剤の投与を施行したが本研究では創部感染を制御することが困難であった。以前の研究と比較し、本研究では骨折作成後に物理的侵襲を有すること(以前の研究では骨折作成後の物理的侵襲はないが、本研究では術後週5回骨折肢にゲルを塗布する)や飼育期間の長さ(以前の研究では最大28日であったが本研究では最大42日)が原因と考えられた。その為、専門家と相談しながら抗生剤の投与方法および種類を変更し、更に清潔操作を可能な限り徹底することによってラットの創部感染合併率を一定確率以下に制御する方法を確立した。 現在、糖尿病ラット骨折モデルにおける創部感染率は大幅に低下しており、この問題は解決していると考えられる。創部感染予防対策に時間を費やすことで、当初の研究計画と比較しやや遅れてはいるが、今後は順次必要数のサンプルを作成し、研究を継続する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
前述の通り、研究計画が遅れていた原因である創部感染の問題は既に解決しており、今後は順次必要なサンプル数を作成し炭酸ガス経皮吸収群と対照群で比較予定である。 単純X線像およびマイクロCTにより、引き続きX 線学的に骨折治癒を評価する。また同サンプルを用いて、サフラニンO染色で組織学的な骨折治癒の評価を順次行っている。現時点ではサンプル数が不足しているので、サンプル数を増やして評価、比較予定である。 今後は、骨折作成後28、42日の時点で大腿骨を採取し3点曲げ試験および捻り試験を行い大腿骨の力学的特性を評価する予定である。また、骨折作成後7、14、21、28、42日の時点で、骨折仮骨からRNAを抽出しReal time PCRを行うことで遺伝子学的評価も行う予定である。 また、研究結果が出そろい次第、国内学会および国際学会にてその成果を発表するとともに、英文論文として投稿する予定としている。
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次年度使用額が生じた理由 |
局所における創部感染予防対策に時間を費やしたため、計画がやや遅れている。そのため、当該年度において、次年度使用額が生じた。今後は順次必要数のサンプルを作成し、研究を継続する予定である。
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