研究課題/領域番号 |
17K10985
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
中山 タラントロバート 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (00365298)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 悪性軟部腫瘍 / 肉腫 / 滑膜肉腫 / 融合遺伝子 / SS18-SSX / SWI/SNF複合体 / 遺伝子発現制御 |
研究実績の概要 |
滑膜肉腫は、腫瘍特異的染色体転座t(X;18)(p11;q11)、およびそれに伴う融合遺伝子SS18-SSXの発現をほぼ全例で認め、発がんに大きく関与していることが示唆されている。疾患特異的融合遺伝子のカウンターパートであるSS18の機能が解明されずにいたが、近年の詳細な分子生物学的研究の成果から、SS18はATP依存性クロマチン制御複合体で、細胞内の遺伝子発現調節に極めて重要な役割を担うSWI/SNF(BAF)複合体のサブユニットであることが明らかとなった。今回の研究では、SS18-SSXを有する変異SWI/SNF(BAF)複合体の機能異常が滑膜肉腫のがん化に深く関与しているという仮説のもと、滑膜肉腫における変異SWI/SNF(BAF)複合体の分子生物学的機能を解析している。 本研究には、SS18-SSXを発現している滑膜肉腫の細胞株を用いている。核内タンパク質の抽出、SWI/SNF複合体のサブユニットに対する抗体を用いた免疫沈降法、およびウエスタンブロット法により、疾患特異的融合遺伝子SS18-SSXはSWI/SNF複合体に結合することを確認した。同時に、SWI/SNF(BAF)複合体の主要なサブユニットで、腫瘍抑制遺伝子として知られるSMARCB1(BAF47)のタンパク質発現の低下、SWI/SNF(BAF)複合体への結合能の低下を確認した。現在はSS18-SSXの発現をsiRNAやshRNAを用いて抑制し、その効果を細胞増殖や生化学的に解析している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究における生化学的な解析結果が、ある細胞株に特異的な現象ではなく、滑膜肉腫特異的なものとして一般化するためには、一つでも多くの細胞株で実験・解析を行うことが必要となるが、実際に複数の細胞株の収集には時間がかかっている。 また、収集した細胞株の中には、実験に耐えるための一定の増殖能を有さないものもあったり、細胞株によって実験の条件が異なったりするため、結果を得るのに時間がかかっている。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き細胞株の収集を進め、各細胞株におけるSS18-SSXのSS18の生化学的なプロファイルを確認する。 SS18-SSXをノックダウンするためのコンストラクト(shRNA)をいくつか作成した上で、それぞれのノックダウン効率を解析し、SS18-SSXノックダウンの実験系を確立する。その他、SS18、SS18-SSX、SMARCB1の発現ベクターを作成し、強制的な発現調節の実験系を確立する。最終的には滑膜肉腫細胞株、SMARCB1欠損悪性腫瘍細胞株、および線維芽細胞などの正常細胞においてSS18、SS18-SSX、SMARCB1の発現を強制的に調節し、主要サブユニットに対する抗体を用いた免疫沈降法により、SWI/SNF(BAF)複合体に関するプロテオーム解析を行う計画である。 【細胞増殖アッセイ】 ノックダウンの実験系、および強制発現の実験系が確立、および遺伝子導入細胞の選択後、コントロールとSS18-SSX KD滑膜肉腫細胞、SMARCB1強制発現滑膜肉腫細胞の増殖能を解析する。解析方法としては、細胞数のカウントやCell Titer-Gloなどのキットを用いた細胞生存率解析、さらにはフローサイトメトリーを用いた細胞周期解析、などを検討している。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)研究初年度であり、解析に用いる細胞株が十分にそろわなかったため、実験がすこし遅れたこと。 (使用計画)平成30年度の実験、解析に必要な抗体の購入やその他の物品の購入に用いる予定である。
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