研究課題/領域番号 |
17K10988
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
吉田 行弘 日本大学, 医学部, 講師 (20201022)
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研究分担者 |
安藤 隆 山梨大学, 医学工学総合研究部, 助手 (10377492)
鈴木 良弘 日本大学, 医学部, 研究員 (80206549)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 骨・軟部腫瘍学 / プラズマ活性化塩溶液(PASS) / 骨肉腫 / salinomycin |
研究実績の概要 |
aPASS/Salによる骨肉腫細胞死の様態を明らかにする目的で以下のような実験を行った。オートファジーの関与を見るためにオートファゴソーム染色色素Cyt-IDを用いた顕微鏡観察ならびにフロ-サイトメトリ-解析を行った。その結果、ヒト骨肉腫細胞は正常細胞に比較して飢餓状態でない場合でも高いオートファゴソーム形成を示し、自発性オートファジーが生じていることが判った。このオートファジーを抑制するとカスパーゼ非依存性細胞死が誘発され、またPASSを投与するとオートファジーが抑制され、非アポトーシス細胞死が誘発されたことから、この自発性オートファジーが非アポトーシス細胞死から細胞を保護していると考えられた。一部の細胞ではこの細胞死がネクロトーシスの特異的阻害剤であるネクロスタチン-1で抑制されたため、ネクロトーシス関連遺伝子RIP-1/3の動態をウエスタンブロッティングにより解析した。その結果、PASSは30分以内にRIP-1/3のリン酸化を増加させた。この増加のカイネティクスとRIP-1/3のどちらがリン酸化を受けるかは細胞によって異なっていた。Salは膵臓がんにオートファジー細胞死を誘発することが報告されていたが、われわれの細胞ではそのような作用は見られなかった。PASS/Salのミトコンドリアならびに小胞体に対する作用を調べるために、生細胞のミトコンドリアをMitoTracker Redで、小胞体をERTracker Greenで、また細胞核をHoechst33342でそれぞれ染色し、蛍光顕微鏡によるマルチ蛍光カラー解析を実施した。その結果、PASS、Sal単独投与に比べて、両者の併用投与によってのみミトコンドリアと小胞体の両者が著しく変性して、凝集することを見出した。この結果は細胞死誘発の結果と相関しており、両方のオルガネラの傷害が骨肉腫細胞死の誘発に必要であることを示す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
順調。理由:本年度の課題のひとつはPASS/Salによる骨肉腫細胞死の様態を解析することであった。PASS/Salによって誘発される細胞死はアポト-シスとは異なることが示唆されていたが、この考えに一致してネクロトーシスを活性化させることを初めて明らかにできた。また、骨肉腫細胞では自発性オートファジーが活発化しており、これによって細胞死が抑制されることが示唆された。PASSは骨肉腫細胞が抵抗性を示す他の抗がん剤とは異なり、この細胞保護的なオートファジーを活性化させず、むしろ抑制することが示された。この特性が高い抗腫瘍効果に寄与するものと考えられた。本年度のもうひとつの課題であるミトコンドリアならびに小胞体に対する作用に関しても両者の併用投与によってこれら二つのオルガネラの著しい変性が誘発され、細胞死と相関することを明らかにできた。このように本年度の主要な課題の両方が達成できていることから進捗状況は順調であると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
がん細胞は正常細胞と異なるカルシウム動態を示すことから近年カルシウムホメオスタシスは新たながん治療の標的として注目を集めている。最近われわれは、骨肉腫細胞のミトコンドリアのカルシウムホメオスタシスの攪乱によってミトコンドリアならびに小胞体の変性が惹起できることを明らかにした。そこで、PASS/Salによるこれらのオルガネラの形態変化や変性におけるカルシウムの役割を検討する。そのために、PASS/Salが細胞質、ミトコンドリアならびに小胞体内カルシウム動態に影響を及ぼすかどうかを各部位に特異的に局在するカルシウムプロ-ブを用いた生細胞蛍光イメ-ジングやマイクロプレートリーダーによる測定で検討する。次に、そのカルシウム調節不全によって誘発される細胞死の様態を調べ、ネクロトーシスなどの非アポトーシス細胞死が起こるかどうか、また細胞保護的オートファジーに対する効果を検討する。PASS/Salの抗腫瘍効果には活性酸素・窒素(RONS)の関与がみられるので、カルシウム変調の関与が示された場合は、標的となるRONS依存性の陽イオンチャネルの同定を目指す。
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