研究実績の概要 |
研究目的は、「低温大気圧プラズマ輸液剤(PASS)およびサリノマイシン(Sal)によって誘発される骨肉腫の細胞死のメカニズムを分子レベルで明らかにするとともにその抗腫瘍効果を確認することによって、PASS/Salを用いた新規な骨肉腫の治療法の基盤を確立する」ことであった。本研究は次のような知見を得た。(1)PASSおよびSalは単剤または併用投与によってヒトならびにマウス骨肉腫細胞株に細胞死を強く誘発した。(2)同濃度のPASSならびにSalはヒト骨芽細胞にはほとんど細胞毒性を示さなかった。(3)PASSによる骨肉腫細胞死は、カスパーゼ-8, -9, および-3の活性化を伴わず、またカスパーゼ阻害によって抑制されないことから、非アポトーシス型細胞死と考えられた。(4)ヒト骨肉腫細胞は正常細胞に比べて不断に高い自発性オートファジーが生じており、このオートファジーは細胞保護的作用を持つと考えられた。(5)Salは骨肉腫細胞では自発性オートファジーを抑制した。(6)PASS、Sal単独投与に比べて、両者の併用投与はミトコンドリアと小胞体双方の変性、凝集をより強く誘発した。これらのオルガネラの傷害の程度は細胞死誘発の程度と相関しており、両者の傷害が骨肉腫細胞死の強い誘発に必要であることが示唆された。(7)C3Hマウスにおける自家移植腫瘍LM8の増殖をPASSまたはSal単独投与は有意に抑制し、両者の併用投与では相加的な抗腫瘍効果が認められた。総括すると、PASSおよびSalは、細胞保護的なオートファジーを抑制して非アポト-シス型細胞死を誘発することにより、骨肉腫に対して高い抗腫瘍効果を示すことが明らかとなった。本研究は、アポト-シス誘導に抵抗性を示す骨肉腫に対するPASSおよびSalの併用投与に基づいた有効かつ安全な治療法の開発に道を拓くものと期待される。
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