人工関節置換術後の無菌性緩みの発生機序として重要なのが、インプラント摩耗粉とそれに反応するマクロファージから始まる一連の免疫反応と、その結果発生する破骨細胞の異常増殖、病的骨吸収の増加である。本研究では、in vitroにおいて摩耗粉と反応したマクロファージ由来の分泌因子を、RNAシークエンスを用いて解析し、破骨細胞の過剰産生・病的骨吸収に関連する新たな治療ターゲットを探索・解析することを行った 。 このシークエンス解析結果と、他の病的骨吸収を引き起こす疾患として関節リウマチと悪性腫瘍の骨転移の遺伝子プロファイルを使用することで、これらの疾患に共通した14個のマクロファージ由来因子を同定した 。 次に14個のマクロファージ由来因子について、in vitroにおける破骨細胞誘導数を計測しスクリーニングを行った。この結果、骨吸収を最も促進させる因子を同定し、その因子の破骨細胞分化・骨吸収メカニズムの解明を行った。 一方、ケモカインは他の免疫細胞の遊走を促し、炎症反応に関与する。このケモカインが無菌性緩みにも関与するとの報告がある。そこで前述のRNAシークエンスの結果から、発現上昇しているケモカインにも着目した。そしてこれらのケモカインが無菌性緩みにおいて炎症反応の促進、及び破骨細胞分化に関与することを示した。さらに、これらケモカインの抑制剤を用いた動物実験を行ったところ、骨吸収が有意に低下した。 本研究で同定した破骨細胞分化・骨吸収促進因子やそれらのシグナル伝達の抑制は、将来的な臨床応用に繋がる可能性がある。申請者は現在、好中球などの他の免疫細胞との相互作用の結果発生する因子についても研究を行っている。今後、マクロファージ・好中球等の免疫細胞と、それらから放出される因子のメカニズム解析を通して、無菌性緩みに関与する破骨細胞分化・骨吸収を抑制する新規治療薬の開発を目指す予定である。
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