研究課題/領域番号 |
17K11008
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
北川 教弘 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 助教 (30294284)
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研究分担者 |
別所 康全 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 教授 (70261253)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 骨代謝 / 糖鎖 / シグナル伝達 / 免疫学 / 破骨細胞 |
研究実績の概要 |
骨吸収活性を有する成熟破骨細胞の分化には、分化誘導因子RANKLとその受容体RANKを介したシグナル伝達経路とともに、DAP12分子中のシグナルモチーフITAMを介したシグナル経路が必須である。我々のグループはレクチン分子Siglec-15がDAP12会合受容体として働き、成熟破骨細胞形成に必要であることを見出していた。さらに本研究によりSiglec-15-DAP12複合体を一分子で模倣する改良型SSDKAを構築し、A)破骨細胞特異的な本キメラタンパク質の発現によりSiglec-15遺伝子欠損マウスの呈する大理石骨病が回復すること、またB)本キメラタンパク質の発現はDAP12遺伝子欠損RAW264細胞の多核破骨細胞形成を回復することをこれまでに確認している。 以上の結果を踏まえ本年度はまず、1)前年度にゲノム編集技術により作成したDAP12遺伝子欠損マウスの戻し交配を行った。これによりゲノム編集で生じた非特異的な遺伝子変異の排除が期待される。in vitroでRANKLにより分化誘導したDAP12遺伝子欠損マウス由来破骨細胞は、野生型マウス由来細胞と比較して顕著に多核破骨細胞数が減少していることが確認された。続いて2)1)で得られたマウスと、破骨細胞特異的に改良型SSDKAを発現するトランスジェニックマウスを交配した。これらマウスから採取した骨髄マクロファージをin vitroにてRANKL刺激により分化誘導した結果、破骨細胞特異的な改良型SSDKAの発現によりDAP12遺伝子欠損マウスの多核破骨細胞形成が回復することが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成29年度に改良型SSDKAの発現がDAP12遺伝子欠損RAW264細胞の多核破骨細胞形成を回復する知見が得られており、Siglec-15が破骨細胞における必要かつ十分なDAP12会合受容体として働くことを強く示唆するものであり、本知見を早急にマウス個体レベルで検証する必要があると考えた。そこで平成30年度にゲノム編集技術を用いたDAP12遺伝子欠損マウスの作成を、当初予定していたSiglec-15-DAP12複合体会合タンパク質の同定に先行して試み、実際に樹立するに至った。ゲノム編集技術は効率よく標的配列に変異を導入することが可能であるが、目的配列以外に変異が導入されている可能性が否定できない。そこで本年度は樹立したDAP12遺伝子欠損マウスを用いて戻し交配を数代(3から5世代)行った。以上のことから、実験計画の遅延は1)前年度までにDAP12遺伝子欠損マウスの樹立を目指したこと、2)時間のかかる戻し交配を行ったこと、の2点が原因である。しかしながら本年度に該当する2)の過程により、非特異的な遺伝子変異の影響を排除し得た可能性が高く、破骨細胞特異的に改良型SSDKAを発現するトランスジェニックマウスや、Siglec-15遺伝子欠損マウスとの交配で得られる実験結果の精度をより高めることができると期待され、本実験計画を精密に実行する上で欠かせない過程であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
1)本研究ではこれまでの準備から、Siglec-15遺伝子欠損マウス、DAP12遺伝子欠損マウス、および破骨細胞特異的に改良型SSDKAを発現するトランスジェニックマウスを樹立している。これらマウスを用いて、Siglec-15が破骨細胞における必要かつ十分なDAP12会合受容体として機能するかを検証する。まず交配により、破骨細胞特異的に改良型SSDKAを発現するDAP12遺伝子欠損マウスを作成する。作成したマウスから脛骨ならびに血清を採取し、μCTによる骨形態の計測、ならびに骨代謝マーカーの測定を行う。同時に骨形態計測を外注し、μCTでは得られないパラメーターを測定する。 2)Siglec-15-DAP12複合体に会合するタンパク質の探索を試みる。本研究ではSiglec-15-DAP12複合体を一分子で模倣する改良型SSDKAの構築に成功している。そこでSiglec-15、DAP12遺伝子欠損マウス由来破骨細胞に改良型SSDKAおよびその変異体を強制発現させ、アフィニティ精製と質量分析法を用いて本分子に会合するタンパク質を同定する。特にSiglec-15のV-setドメインおよびDAP12のITAMに会合するタンパク質に着目し、RNA干渉法もしくはゲノム編集を用いて破骨細胞分化におけるそれらタンパク質の機能を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)μCTによる骨形態の計測から、破骨細胞特異的な改良型SSDKAの発現はSiglec-15遺伝子欠損マウスの大理石骨病を顕著に抑制することが分かった。本知見は破骨細胞形成においてSiglec-15がDAP12会合受容体として機能することを示唆する。これに対し、in vitro分化誘導系を用いた解析から、改良型SSDKAの強制発現はDAP12遺伝子欠損破骨細胞の多核化および骨吸収活性を回復することを見出した。この結果はSiglec-15がDAP12会合受容体として十分であることを強く示唆する。そこでDAP12遺伝子欠損マウスを作成することを優先し、当初予定していた骨形態計測の外注を後回しにしたために次年度使用が発生した。 (計画)破骨細胞特異的改良型SSDKAの発現が、DAP12遺伝子欠損マウスの大理石骨病を軽減するのかをμCTを用いて検討する。軽減された場合、本遺伝子型マウスを用いて骨形態計測を外注する際に使用する。またそれまでのマウス飼育費用に使用する。
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