研究実績の概要 |
前年度のヒト変形性関節症の骨棘およびATDC5細胞を用いた研究で, 軟骨細胞の分化過程で肥大化の前後でADAM12の発現が高値となることがわかった。本年度はATDC5細胞の軟骨分化誘導過程におけるADAM12 KOの影響を検討した。ADAM12-knockout (KO) ATDC5細胞樹立のために, CRISPR/Cas9 systemを用いてsingle guide RNA expression vectors : target site of ADAM12 (5′-GCATCATGAACCCGTCCACG-3′ and 5′-TATTCTGACATCGACGATTG-3′)とCas9プラスミドでDNAを切断し、それらの細胞集団からホモ切断の細胞だけを抽出するためにFACSAria II cell sorter (BD Biosciences, San Jose, CA, USA) でsingle cell sortingを行った。ホモ切断できている細胞はPCRを行い, シークエンスで確認した。Wild type ATDC5細胞とADAM12 KO ATDC5細胞をDMEM/HAM’s F12 (1%FBSを含む) で培養し、細胞を24 well plateにそれぞれ2.0 ×104 cells/cm2ずつ播種した。次いでreal-time PCRで分化誘導過程中におけるADAM12, IGF-1, RUNX2, Col10a1のmRNA発現をwild type ATDC5細胞とADAM12 KO ATDC5細胞で比較検討した。ADAM12 KO ATDC5細胞では, wild typeと比較して分化誘導過程中にIGF-1の発現は抑制された。一方で, RUNX2の発現は2週目をピークに亢進した。分化誘導後3週と4週、5週目において, ADAM12 KO ATDC5細胞で, wild typeと比較してCol10a1の発現が有意に亢進した。ADAM12 KO ATDC5細胞において, wild typeと比較しwestern blotで3週と4週, 5週目で細胞内のCol10a1の蛋白の発現が亢進した。以上の結果から, ADAM12はX型コラーゲン発現を負に調節し, 軟骨細胞の肥大化に抑制的に働くことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
患者サンプルを用いた研究では, ADAM12が内軟骨性骨化の過程で軟骨細胞分化における肥大化に関与していることが明らかとなった。また, X型コラーゲン発現との関わりについてはATDC5細胞を用いたin vitroの研究でX型コラーゲン遺伝子の発現の前後でADAM12遺伝子が動いていることが示唆された。本年度はCRISPR/Cas9 systemを用いた遺伝子ノックアウトに成功した。野生型ATDC5細胞との比較により, ADAM12-KOにおいて, X型コラーゲン発現は亢進することから, ADAM12のX型コラーゲン発現に対する抑制的な働きが示唆された。当初の研究計画では, ADAM12はX型コラーゲン発現を促進するとの仮説のもとに研究を開始したため,これを否定する結果の検証に時間を要したが, 全体としては概ね順調であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
ADAM12遺伝子のKOは軟骨細胞の肥大化に抑制的に働く可能性があることから, 本年度はATDC5細胞におけるADAM12過剰発現によるIgf-1、RUNX2の発現への影響を検討する。具体的には, 細胞にTGF-β1 (10 ng/mL; Cell signaling Technology, Beverly, MA, USA) を添加し24時間刺激した後にRNAを回収し, wild type ATDC5細胞とADAM12 KO ATDC5細胞とで比較する。さらにATDC細胞において, ADAM12過剰発現ベクターを用いて高発現させ, Igf-1, RUNX2 mRNAの発現に与える影響を検討する。さらに軟骨細胞におけるADAM12発現とmiR-29bとの関連も検討する予定である。
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