研究課題
本研究事業は、ヒト膝前十字靭帯(ACL)の組織変性度に関して、近赤外ラマン分光法を応用した新たな低侵襲診断技術を開発することを目的としたものである。最終年度では、病理スコアに基づき各検体から測定した近赤外ラマンスペクトルを軽度変性(early)と重度変性(advanced)群の2群に分類した後、診断アルゴリズムを数学的に探索した。今回は分類対象が明確であったことから、所謂「教師あり学習(supervised learning)」と呼ばれるモデル作成アプローチを採用した。つまり、事前に変性度を把握した状態でスペクトル上の診断モデル作成を試みる方針であり、交差検証(cross validation)を用いて安定した診断モデル作成を試みた。結果は、ACLの構造変性に伴い、核酸(DNA/RNA)、コラーゲン、リン脂質由来の複数のラマン・バンドの強度が変化していることを確認した。一つのACL検体からは約750個の分子振動エネルギーに関する情報が得られるが、統計手法を用いて最終的に4個までその情報を絞り込んだ。この4つのスペクトル強度の比率を採用すれば、2変数の線形判別分析によって組織変性の重軽度が迅速に分類できる非常にシンプルなモデルを作成することが可能であった。得られた診断モデルの頑健性(robustness)は、感度100%、特異度80%、精度91%であった。理論上このモデルを利用すれば、近赤外光を照射するだけでACL変性の重軽度を判別できると考えられる。
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Acta Biomaterialia
巻: 99 ページ: 284-294
10.1016/j.actbio.2019.09.016.