研究課題
トシリズマブ(TCZ)は投与直後から炎症反応を強力に抑制するが、実際の患者の症状との間に乖離が見られることがある。このため治療早期にCRPなど既存の指標以外の寛解予測に有用なバイオマーカーが求められる。TCZ投与中の関節リウマチ患者の血中reactive oxygen metabolites (ROM)がdisease activity score (DAS)寛解の予測因子になりうるかを検討した。対象はトシリズマブ・ナイーブ32例、他剤からトシリズマブへのスイッチ14例の計46例であり、開始時年齢60.1 (21-83) 歳、罹病期間8.1 (1-52) 年である。TCZ開始後4, 12週の血中ROM, CRP, MMP-3と52週のDAS寛解の関連を検討した。DAS-ESRの寛解基準を用いてTCZ投与後52週の寛解、非寛解群に分け、4, 12週における上記の因子について統計学的解析を行い、有意差のあった因子をROC解析により、そのカットオフ値を求めた。トシリズマブ投与後12週では、寛解、非寛解群でCRP, MMP-3に有意差はなかったが、ROMは寛解群では非寛解群に比べて有意に低かった(p<0.05)。ROC解析の結果、DAS寛解のためのROMのカットオフ値は305.5 (正常値<300)U.Carr(感度70%, 特異度72.2%)であった(AUC = 0.735, p = 0.024)。多変量解析の結果、12週のROMは52週のDAS寛解と有意に関連した(OR: 6.067, 95%CI: 1.305-28.203)。しかしながら,CRP, MMP-3は4,12週ともにDAS寛解の予測にはならなかった。トシリズマブ投与後12週の血中ROMは52週のDAS寛解を予測しうる。
3: やや遅れている
本研究課題の内、患者血液を用いた臨床研究に関しては研究実績の概要に示した通り、概ね順調に進行していると判断した。もう一つの課題である滑膜細胞、軟骨細胞を用いた酸化ストレスの産生機序と骨軟骨破壊に関する基礎研究に関してはプレリミナリーなデータしか得られておらず、やや遅れていると判断した。手術時に得られたヒト由来の滑膜、軟骨細胞を用いているため、データが安定しないことが一因と考えている。
臨床研究に関しては、関節リウマチ患者の血中ROM値測定の意義として、生物学的製剤中止の指標となりうるかどうかを検討したい。基礎研究に関しては、滑膜細胞、軟骨細胞を用いた酸化ストレスの産生機序と骨軟骨破壊に関する基礎研究に関する実験を進めていく。患者由来の細胞を用いているためどうしてもデータにバラつきが生じてしまうが、サンプル数を増やすことで傾向をつかみたい。また、コントロールとしてヒト滑膜由来の線維芽細胞株(MH7A)を用いた酸化ストレスの産生機序に関する実験も検討する。
2019年度に研究成果を発表予定であった海外での学会をキャンセルしたため、計上していた旅費が余ったことが考えられる。また、培養細胞を用いた酸化ストレスの産生機序、骨軟骨破壊に関する実験に使用予定であった試薬の購入を延期したため、消耗品として計上していた費用が余ったことが考えられる。生じた次年度使用額は2020年度内に予定している基礎研究に必要な試薬購入、検査費に補充したいと考えている。2020年度配分額は主に滑膜、軟骨細胞を用いた酸化ストレスの発生機序、骨軟骨破壊に関する基礎実験に必要な試薬、実験器具などの消耗品に使用する予定である。
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