研究課題/領域番号 |
17K11048
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
林 智子 名古屋大学, 医学部附属病院, 病院助教 (10718414)
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研究分担者 |
小西 裕子 名古屋大学, 医学系研究科, 寄附講座助教 (60771970)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | セボフルラン / 浸潤 |
研究実績の概要 |
吸入麻酔薬暴露で一部の細胞株に発現する炎症反応遺伝子は、がんの悪性度に関わり形質転換を生じる遺伝子と協同し悪性度を増すことが示唆されている。形質転換とは良性の腫瘍が基底膜を破り足場の安定しない結合組織に浸潤し、毛細血管を介して各臓器へと転移にいたる、がん細胞の悪性化を意味する。このとき良性のがん細胞が形質転換をするにあたり、特徴的な増殖能(足場非依存性増殖能)や特定の遺伝子が発現することが示唆されている。 本年度までに申請者は吸入麻酔薬セボフルラン暴露後の一部のがん細胞株において、この形質転換に関わる遺伝子が高発現することを明らかにした。さらにヒトがん細胞株の複数の細胞株についても吸入麻酔薬セボフルラン暴露によって、浸潤能の亢進と深く関与するとしられている足場非依存性増殖能の亢進を軟寒天培地の培養と立体的な培養であるスフェロイド培養により確認した。またこれらのがん細胞株は吸入麻酔薬セボフルラン暴露後に、免疫不全マウスの皮下においてもその増殖能を有意に高めることを、マウスの皮下に生じた腫瘍のサイズと、その腫瘍から増殖を示すタンパク質の発現が増加していることを組織免疫染色によって明らかにした。さらにこうした増殖能の亢進は、分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼが関与することを明らかにし、本キナーゼの阻害剤によってこの増殖が抑えられることを示した。以上得られた成果について申請者らは、麻酔薬ががん患者に与える影響について報告を行っている国際学会(第5回)において口頭発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度までの本申請の進捗は計画通りに進んでいる。今年度は麻酔薬暴露後に足場非依存性増殖能を加速させるがん細胞株を複数探索した。得られた2つのヒトがん細胞株について暴露後に創傷治癒能、ボイデンチャンバーによる遊走能、また足場非依存性増殖能、さらに動物モデルによる増殖能などが亢進することを明らかにし、さらに生化学的な解析の一つとしてこれらの増殖を支える関連タンパク質の発現量が暴露後に変化していることを明らかにした
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今後の研究の推進方策 |
本年度までにセボフルラン麻酔薬の暴露後の増殖能が亢進するヒトがん細胞株の探索と、足場非依存性増殖能と動物モデルによる増殖能の亢進について様々な方法で繰り返し確認を行った。そこで本年度は形質転換に係るタンパク質発現量と遺伝子発現量を解析し研究を推し進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) ヒトがん細胞株の異種移植実験の最適な細胞株の探索に時間がかかり、予測よりも少ない種類の細胞株で動物実験を行ったため次年度使用額が生じたと考える。 (使用計画)使用額については来年度の動物実験及び細胞培養に必要なプラスチック製消耗品に使用する予定である。
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