近年増加している長時間にわたる担癌患者への外科手術に、癌細胞への影響を配慮したより適切な麻酔薬を選択することが不可欠となる。そこでこれらの選択に必要な基礎データを蓄積し提供するため以下の検討を行った。麻酔薬の一部はがんの増殖に影響を与えるという報告があるが、試験される細胞数も少なく、試験条件も異なっていることからより一層の基礎データの蓄積が望まれている。これまでに研究代表者らは複数のがん細胞株を用い、吸入麻酔薬の一つであるセボフルランが、ヒトがん細胞株の種類によって異なる増殖影響が生じることを明らかにした(発表論文)。さらに吸入麻酔薬暴露後に発現を高める、細胞外分泌糖タンパク質Wntに着目し、その増殖への作用機序を明らかにするために生化学的な検討を行い、中でも幹細胞の多能性や消化器表皮の未分化能を維持するために必要な経路であるWnt/β-catenin経路について解析を進めた。これまでに研究代表者らはによりこの一部のWnt遺伝子が麻酔薬暴露により活性化することが示唆されたことから、このノックアウトクローンを樹立し増殖能について、単層培養と異種移植によって実施をした。その結果、野生型株とノックアウトクローンではその増殖能に違いが生じることを同定した。またこの時、糖分泌タンパク質の一つWNTタンパク質を増加し、形質転換の指標の一つである足場非依存性増殖能を亢進することを明らかにした(投稿準備中)。また本研究で得られた成果の一部は日本麻酔科学会の招待講演や海外の麻酔科学会において発表する機会を得られた。
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