昨年まで体外循環モデルの確立に難渋しており、ボリューム負荷、抗凝固量の調整を行いある程度の循環動態の安定化が得られたが、死亡率が高い状況であった。したがって、今年度は体外循環時間の変更、送血、脱血経路の変更を検討した。これまで体外循環は30分程度は問題ないが惹起される炎症度合いが一定しないため、1時間程度の体外循環がやはり不可欠と判断。また、水素を負荷する膜型人工肺中の血流が一定しておらず(血圧が個体によって一定しないため)、負荷効果が検証できなかった。そこで、これまで動脈脱血、静脈送血で血流は生体の圧任せとしていた経路を静脈脱血、動脈送血に変更し、血流はポンプによる灌流に変更した。また、その間血圧をやや低めに維持する(内頚動脈で測定)ことで血行動態のばらつきをおさえる試みによって、1時間の体外循環後の生存が可能となった。体外循環中は、平均血圧を50mmHg前後に保つように脱血を行いながら、1時間後に体外循環の終了と同時に返血した。このように血行動態や循環経路を臨床の体外循環に近い条件を設定した結果、灌流速度がポンプ使用によって一定となり、膜型人工中を流れる血流も均一化したため、今後のモデルとして確立出来たのではないかと判断している。また、同時進行として、投与した水素の体内動態を計測する実験系の確立を模索した。血液中、組織中の水素濃度を直接測定する系であり、投与した水素がどの組織に分布し、その局所における酸化ストレスや炎症をどう抑制しているのか検討に入っている。水素添加のための膜型人工肺を機能させつつ、体外循環モデルとして確立するまでに当初の予定よりはるかに遅延したが、本研究を通じ、今後の水素療法検討の一助となると考えている。今後は本研究をもとに、各組織における投与された水素の体内動態を明らかにし、標的臓器と水素療法が効果的な病態を詳しく検討していく予定である。
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