研究課題/領域番号 |
17K11061
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
西村 欣也 順天堂大学, 医学部, 教授 (80164581)
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研究分担者 |
宮嶋 雅一 順天堂大学, 医学部, 教授 (60200177)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 吸入麻酔薬 / 電気生理学 / 線条体 / 基底核 / MSニューロン |
研究実績の概要 |
細胞膜の過分極によって活性化する陽イオン電流である“Ih” 電流は心筋および神経細胞の興奮性に寄与し,自発性の活動電位の発生頻度を決定するペースメーカー電流の一つとして広く研究されている.また,この Ih電流の発達的変化は成熟に極めて重要な役割を果たすと推測されているため,本研究では成長に伴う線条体におけるコリン作動性介在ニューロンのIhおよび機能的Ih活性化動態に対して,揮発性麻酔薬セボフルランが与える影響を調べた.その結果,コリン作動性介在ニューロンのIhの変化が成熟と共に生じることが解った.そしてセボフルランの適用(1~4%)は用量依存的にIh電流の有意な阻害を引き起こし,そして明らかにIh活性化を遅らせた.また,カレントクランプ記録ではセボフルランは皮質と視床からの感覚入力への応答に不可欠であるリバウンド活性におけるスパイク発火を有意に減少された.このことから,線条体コリン作動性介在ニューロンにおけるセボフルラン誘発性Ih電流の阻害は,出生後早期の神経回路におけるアセチルコリンとドーパミン代謝とのバランスの変化をもたらす可能性があることが示唆された. さらに,私たちは脳脊髄液中のロイシンに富むα2-糖タンパク質(LRG)濃度の増加がヒトの認知機能低下と関連していることを報告したが,脳におけるLRG発現と記憶障害との間の関係を調査するために,海馬に焦点を合わせてLRGを過剰発現するトランスジェニックマウス(LRG - Tg)を作成し,分析した.そして電気生理学的仕法により,電場興奮性シナプス後電位は,8,24および48週では,対象と比較してLRG-Tg上昇とともに減少した. これにより海馬LRGの過剰発現はシナプス機能不全の一因となり,それは加齢と共に記憶障害を引き起こす可能性が示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Ih電流の解析、トランスジェニックマウス(LRG - Tg)の作成、生化学、行動学、さらに電子顕微鏡を用いた形態学的変化の探求がそれぞれ順調に進んだため。
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今後の研究の推進方策 |
多くの研究報告から,吸入麻酔薬には“麻酔”作用だけでなく,虚血範囲を縮小させるプレコンディショニング効果の存在が知られている.その上で臨床の現場で多用されている吸入麻酔薬:セボフルランでの効果が明らかに出来れば,周術期脳疾患合併症の発生を抑制できる可能性がある.今回,セボフルランでの脳細胞に対するプレコンディショニング効果を明らかにするため,基底核線条体(MS細胞)を用いて,神経細胞のみならずアストロサイトやグリアの役割までも含めて検討を進めたい.特に虚血再灌流障害時はグリアからニューロンへのエネルギー供給が重要と考えられているため,セボフルランがどのような影響を与えるかは機序解明の“要”になると思われる.今までに吸入麻酔薬はIh電流やカリウムチャネル,カルシウムチャネルに作用し,神経伝達機能に影響を与えることを報告してきたが,さらに虚血に有利に働くとされている水素ガスを併用し,これらチャネルに対する変化に検討を加えるつもりである. 以上,本研究を元にして,吸入麻酔薬のプレコンディショニング効果と水素ガスの併用が神経細胞やグリア細胞に対するメカニズムの解明は.将来的に新たな吸入療法への開発を含め,手術患者の予後改善に貢献できるものとして実験を行いたい.
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次年度使用額が生じた理由 |
順天堂大学のキャンパス再編成に伴い,麻酔科学研究室は移動対象となり器材移動および再調整のため数ヶ月の間,実験が行えない状態にあった.このため,共同研究を行う順天堂大学脳神経学の研究室でのトランスジェニックマウスを用いる生化学,および組織学的実験に多くの時間を費やすこととなった. また,麻酔科学実験室が担当する主要な電気生理実験であるが,東京都長寿医療センターの協力を得て研究部門生理学研究室(三浦研究室)で行ったため,新たな器材調達および薬剤を始めとする消耗品経費などにかかる費用が発生しなかった. 今後は 当研究室(順天堂大学麻酔科学研究室)での実験を行いたい,と考えている.
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