研究課題/領域番号 |
17K11072
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
張 京浩 帝京大学, 医学部, 教授 (50302708)
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研究分担者 |
山田 芳嗣 国際医療福祉大学, 国際医療福祉大学三田病院, 教授 (30166748) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 急性呼吸促迫症候群 / デキサメサゾン / 炎症性サイトカイン / アポトーシス / JNK / Akt / スタチン |
研究実績の概要 |
新型コロナ肺炎のパンデミックの影響を受け、実質的に旧所属の実験室での実験の継続が困難となり、現在の所属での実験継続を目指して引き続き実験室の整備を行った。しかしながら、研究者自身が新型コロナ肺炎の重症患者の診療に引き続き主体的に関与する必要があり、エフォートの90%以上を臨床業務に費やさなければならない状況が続いている。さらに年度の途中で研究代表者自身が新型コロナに罹患し体調を崩すという予想外の事態も生じて、実験室での実験再開にまだ着手できなかった。一方で、本実験課題での成果の一部として、すでにデキサメサゾンの炎症性急性肺障害の有効性を報告しているが、その知見が、予想外にも、現状のコロナ肺炎の標準治療薬となっている同薬剤の薬効の基礎的な機序の一部を説明していることとなり、他の論文でも新型コロナ肺炎でステロイドが効く機序として引用されるに至った。具体的にはデキサメサゾンが、JNK系の抑制とAkt系の増強により炎症性サイトカインによる肺胞障害を抑制し、その際、別種の抗炎症薬であるラパマイシンを同時投与することでその細胞保護効果が一層増強されるという内容である。ラパマイシンについては、新型コロナ肺炎ではまだ臨床的に試されていないものの、いわゆるサイトカインストームを呈する一部の病態での有効性は示唆されており、今後において、新型コロナ肺炎で試される可能性もある。以上の点については、今年の麻酔科学会総会のシンポジウムに招待を受けて発表予定となっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2018年度までに、急性肺障害をシュミレートしたin vitroモデルを構築し、その系での細胞傷害性を軽減するキー分子として、JNKとAktが重要であることを明らかにできた。すなわち、炎症性サイトカインの関与する肺障害においては、少なくとも部分的にはJNKの活性化によるアポトーシス経路が関与し、さらにその細胞障害性の軽減には、JNKそのものの活性抑制と、別途Aktの活性化によるsurvival経路の賦活が重要である知見を得たので、まずはその成果を論文として発表した。2019年度は、その系を用いて、主要な課題であるスタチンの前投与の効果を検証した。結果として、スタチンはその種類によらず細胞障害性を増幅するのみで、水溶性/脂溶性の違いによる生物学的効果の違いを見出すには至らなかった。2020年度は、上記知見の普遍性を示すために、新たに神経系細胞を入手して実験課題を検証する予定であったが、上述のように、新型コロナ肺炎のパンデミックの影響を受けて、実質的な実験計画については進展を見ていない。しかしながら、すでに本実験課題に関連して発表している知見であるデキサメタゾンが炎症性急性肺障害を軽減する機序が、現状の新型コロナ肺炎でのデキサメサゾンの臨床的効果に貢献している可能性があり、他の論文でも引用されるに至った。加えて2022年度の麻酔科学会総会において、この論点をシンポジストして発表すべく招聘も受け、現在鋭意発表の準備中である。
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今後の研究の推進方策 |
スタチンと急性呼吸促迫症候群(ARDS)との関係については、臨床データにおいて、より炎症所見の強いARDSでスタチン(simvastatin)の有効性を示唆する報告も最近なされており、現状においても、そのシグナル伝達に関する基礎的知見を検証することは大変意義深いと考えている。しかし実験課題の成果としては、新型コロナ肺炎でのステロイドの作用機序を提示できたことだけでも一定の成果をすでに示せたものと考えられる。当初の実験計画に沿って、スタチンのARDSにおける役割を追求することも依然として念頭においているが、21世紀の未曽有のパンデミックの渦中にあって、研究計画を新型コロナ肺炎の病態生理に舵を切ることも重要と思われる。現在臨床においては集中治療部門に属し、すでに100例以上の重症新型コロナ肺炎患者を治療してきた。その臨床知見と本研究課題で得られたARDSの病態生理に関する実験成果を組み合わせて、重症新型コロナ肺炎の病態生理に関しての学会発表及び総説論文の作成に取り組むことも合わせて、最終年度での目的としたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ肺炎の影響等で学会発表が制限されたこと、臨床に費やすエフォートが過大となり、実験計画をうまく進展できなかったことが理由である。今年度は、実験室の整備と並行して、これまでの成果を元にした学会発表を予定しており、それをまとめる論文作成も同時に行うことで研究課題のまとめとする予定である。
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