術後せん妄は周術期の患者予後を悪化させ、社会復帰を遅らせる原因となっている。糖尿病は術後せん妄のリスク因子として知られている。 本研究では2型糖尿病モデルマウスを用いて周術期の行動変化および脳内での神経栄養因子を含めた各種mRNA発現量変化について調査した。 2型糖尿病モデルマウスは高脂肪食を摂食させ作製した。14週齢において手術侵襲前後での行動評価を施行した。行動はオープンフィールド、新奇物体認識試験、明暗箱試験を含む一連のプロトコールにより評価を行い、手術侵襲として開腹手術を施行した。行動実験後、脳組織(前頭葉皮質)を採取し、polymerase chain reaction (real-time PCR)を用いて、各種mRNA発現量(脳由来神経栄養因子:BDNF、RAGE、ドパミン受容体:D1R、D2R、セロトニン受容体、アドレナリン受容体:β1R、β2R)について解析した。 2型糖尿病群では、術前後においてオープンフィールドの総運動距離が有意に低下し、新奇物体認識試験での総探索時間が有意に減少し、明暗箱試験における移動回数が有意に減少した。前頭葉皮質における術前後のBDNF発現量は対照群と2型糖尿病群の間で有意差はなかったが、いずれの群も術後に有意に低下した。RAGEの発現量は術後に対照群は2型糖尿病群に比較して低値を示した。D1R、D2Rの発現量は術後に2型糖尿病群は対照群と比較して有意に低値であった。セロトニン受容体は対照群、2型糖尿病群共に、術後に有意な増加を認めた。β1Rは、術後に対照群および2型糖尿病群のいずれの群でも有意な増加を認めた。さらに、β2Rは、術後に対照群および2型糖尿病群のいずれの群も有意に低下した。 2型糖尿病モデルマウスでは術後に活動性の低下がみられ、脳内の神経栄養因子やカテコラミンの発現変化が影響している可能性が示唆された。
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