研究課題/領域番号 |
17K11084
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
閔 莉娟 愛媛大学, 医学部附属病院, 助教(病院教員) (80726175)
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研究分担者 |
茂木 正樹 愛媛大学, 医学系研究科, 教授 (20363236)
堀内 正嗣 愛媛大学, 医学系研究科, 教授 (40150338) [辞退]
岩波 純 愛媛大学, 医学系研究科, 助教 (90624792)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 脳虚血 / Aβ投与 / 脳血管障害 / 脳血管老化 / 認知障害 / AT2受容体 / 炎症・酸化ストレス / 神経細胞障害 |
研究実績の概要 |
本研究では脳虚血が脳血管の老化さらにAβクリアランスに影響し、Aβの存在により認知障害を悪化させる可能性及びAng II AT2受容体の効果を検討することを目的とする。Aβ脳室内投与および一過性全脳虚血(Aβ-虚血)モデルマウス、脳血管平滑筋細胞(BVSMC)を用い検討を行った。野生型マウスにおいて、Aβの投与では認知機能の低下が認められた。虚血のマウスでは顕著な認知機能の低下は認めなかったが、興味深いことに、Aβ-虚血マウスではAβ投与マウスと比べて、認知機能がさらに低下した。このAβ-虚血による認知障害にはスーパーオキシドアニオンの産生やNADPHオキシダーゼサブユニットのp22phox、p40phoxの発現やNADPHオキシダーゼ活性の増強と炎症性サイトカインのMCP-1、IL1-βの増加、またAβトランスポーターRAGEレベルの上昇が影響することが認められた。また、Aβ-虚血群ではAβや虚血群より変性神経細胞を示すとされるpyknosis数が多かった。一方、AT2受容体を過剰発現するマウス(SMAT2-Tg)においては認知障害の悪化、炎症、酸化ストレスやRAGEレベルやpyknosis数の増加が認められなかった。BVSMCにおいて、単独刺激では老化を誘導しない低濃度のAng IIとAβの併用刺激により老化細胞が増加した。この相乗作用には酸化ストレスの増加、p-ERK/p16/pRb経路、またNF-κB/IκBの活性が関与している可能性が認められた。以上より、脳虚血はAβの存在により認知障害を悪化させることが示唆された。そのメカニズムとしては、脳血管老化を促進させることで脳内の炎症や酸化ストレスの増加、RAGEを介したAβ血管クリアランスの軽減、神経細胞の障害などが関与している可能性が考えられた。血管AT2受容体の活性化はこの認知障害を抑制する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在まではほぼ計画の通りに進めております。In vivoの結果について、予想の通り脳虚血はAβの存在により認知障害を悪化させることが示唆された。炎症や酸化ストレス、神経細胞障害の関係も予想の通り認められた。AβトランスポーターRAGEとLRP-1を調べたところ、Aβや脳虚血よりAβ-虚血ではRAGEレベルが高かったが、LRP-1レベルは変わらなかった。RAGEとLRP-1はAβトランスポーターのペアであり、LRP-1は脳内のAβをBBBより血中に移動させて肝臓で分解させる。逆にRAGEは、血中AβをBBBに通過させ脳内に移動させて脳内に沈着させる。しかしある論文はLRP-1が脳内Aβ濃度への影響は少なかったと報告した。私たちの結果は同じようにLRP-1はAβクリアランスに影響しなかったということを示した。これはLRP-1レベルが変わらなかったことに解釈できる一つ理由であると考える。Aβの分解についてMMP9の発現を調べた、MMPは脳内Aβ濃度への影響がなかったということが示唆された。このことから、脳虚血とAβの認知機能における相互作用にはRAGEを介したAβクリアランスの軽減は重要だと考える。神経細胞障害の関与はpyknosisを着目して、HE染色法で予想の通り認知障害に影響することが明らかに認められた。そのメカニズムについて、ウエスタンブロット法にてアポトーシスマークの発現を調べている。In vitroでも、ほぼ予想の通り単独刺激では老化を誘導しない低濃度のAng IIとAβの併用刺激により老化細胞が明らかに増加した。ERK inhibitor U0126を使ったことで、酸化ストレスの増加、p-ERK/p16/pRb経路、NF-κB/IκBの活性化がこの細胞の老化に関与していることが認められた。
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今後の研究の推進方策 |
今後以下のようにさらにメカニズムに焦点を当てた検討が進める: In vivo: この前、いろいろな抗体を使って、いくつの免疫染色法にて脳組織や脳血管中のAβの沈着を認められなかった。これから、脳組織中のAβ濃度はELISA法にて測定する予定である。また、神経細胞障害のメカニズムについて、現在アポトーシスマークの発現を調べている。それ以外、オートファジーにも着目して、オートファジーのinducerであるRapamycin や阻害薬である3-methyladenineの投与による認知機能への影響や脳中のAβ濃度を比較検討する。以上の検討は変化が認められた場合、SMAT2-Tgも用い、Aβ-虚血モデルマウスを作製し野生型マウスと以上の検討を比較する。脳血管障害について、脳血管の老化をSA-β-gal染色法にて確認する。 In vitro: 老化したBVSMCにおけるAβの取り込み能を調べるため、AβとAng IIで誘導した老化BVSMCに125Iで標識したAβ1-40を添加し、10分間の細胞内Aβの取り込み量をγシンチレーションカウンターにてCell/Medium ratioで評価する。また、老化したBVSMCよりAβの分解能力を調べるため、AβとAng IIで誘導した老化BVSMCを通常の培養ミディアムに戻し、48時間後の培養メディウム中のAβ濃度をELISA法にて測定する。以上の検討は変化が認められた場合、SMAT2-Tgも用い、野生型マウス由来のBVSMCと比較し検討する。 令和元年中実験の終了と論文の完成・投稿する予定である。
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