研究課題/領域番号 |
17K11088
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研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
松本 重清 大分大学, 医学部, 准教授 (90274761)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 術後せん妄 / 酸化ストレス / ビタミンC / 電子スピン共鳴 |
研究実績の概要 |
術後せん妄(POD)は、高度侵襲を伴う心臓大血管手術で高頻度に発症し、死亡率増加をもたらすため、その予防法の確立は喫緊の課題である。発症機序として、従来から神経炎症が重要視されてきたが、最近、酸化ストレスの関与も明らかとなった。急速な高齢化により、心臓大血管手術を受ける患者は種々の合併症を有し、術前から過剰な活性酸素種(ROS)が産生され、酸化ストレスが生じている。我々は、POD発症機序として酸化ストレスに注目した。. 当施設において、待機的に心臓血管外科手術を受けた患者を対象とした。せん妄患者群をD群、非せん妄群をND群とした。高速液体クロマトグラフィにより測定したビタミンC(VC)濃度と、電子スピン共鳴装置により2分で測定できるVCラジカル強度(VCR)には正の相関があるため、VCRによりVC濃度がリアルタイムで判明する。血漿VCRの経時的変化(麻酔導入直後、人工心肺離脱直後、ICU入室直後、以後、術後1日毎)とPOD発生との関係を検討した。 これまでに151症例のサンプリングを行い、その内訳は、D群が20%、ND群が80%である。全症例の解析は終了していないが、術前の血漿VCRはD群がND群より有意に低値となった。一方、術後1日目の血漿VCRは、D群、ND群に有意差を認めなかった。現在、残りのデータ解析に加えて、術前値から術後1日値の変化率がPODの発症に影響しているかどうかを検討している。 VCR以外の酸化ストレスパラメーターであるIsoprostanesやIsofuransも測定したが有意差は得られなかった。現在、様々な周術期の因子における多変量解析を行い、PODと酸化ストレスとの関連性が見いだせないかどうかを検討している。さらにグルタチオンの枯渇や尿酸の蓄積などの酸化ストレスを示唆する代謝異常が生じていないかを検討するためにメタボロミクスも計画している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
臨床研究の同意が得られ、周術期に経時的に採血を行った症例は151名であるが、まだ全ての症例の測定が終了していない。また、酸化ストレスとPODの関連をより明確にするため、他の酸化ストレスマーカー(IsoprostanesやIsofuransなど)も測定したが有意な結果は得られなかった。現在、PODとVCRと他の酸化ストレスマーカーおよび周術期の各種因子(麻酔時間、手術時間、出血量、尿量、輸液・輸血量など)、術後ルーチンに行う血液生化学検査、術後合併症(新規心房細動、術後出血量、腎不全など)、その他(ICU滞在期間、入院期間、院内死亡など)のデータも集めて多変量解析中である。さらに、グルタチオンの枯渇や尿酸の蓄積などの酸化ストレスを示唆する代謝異常が生じていないかを検討するためにメタボロミクスも計画している。近年、ユビキチンシステムの異常を介してパーキンソン病の原因となることが知られ、脳に特異的に発現する脱ユビキチン化酵素(DUB)であるUbiquitin carboxyl-terminal hydrolase L1(UCHL1)の血中濃度の上昇がPODと関連するとの報告もあるため、これも測定する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
まず、151症例のデータ解析を早急に終了し、高度侵襲手術でPODが発症しやすく、また、術前ビタミンCが低く、術後の低下が著しいほどPODが発症しやすいことを証明する。 ビタミンCの変化だけでなく、より多角的に酸化ストレスの変化を捉えるために、メタボロミクスやその他の酸化ストレスマーカーの測定も行う。さらに、近年、PODの指標となることが報告されたUCHL1の血中濃度も測定する予定である。 そのデータを元に、新たな臨床介入研究を計画して、周術期の患者に対して、抗酸化物質、特に安全性の確立しているビタミンCの補充療法を行い、PODの発症を予防できるかどうかを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
酸化ストレスをビタミンCの変化だけでなく、より多角的に捉えるため、グルタチオンの枯渇や尿酸の蓄積などの酸化ストレスを示唆する代謝異常が生じていないかをメタボロミクスにて検討する予定であったが、測定を担当する大学職員が退職したため、本年度に測定することができなかった。次年度には麻酔科学講座の技術補佐員とともに測定する予定である。また、近年、ユビキチンシステムの異常を介してパーキンソン病の原因となることが知られ、脳に特異的に発現する脱ユビキチン化酵素(DUB)であるUbiquitin carboxyl-terminal hydrolase L1(UCHL1)の血中濃度の上昇がPODと関連するとの報告もあるため、これも測定する予定であったが、米国製のELISAキットの入手に時間がかかり、本年度内に測定できなかった。すでにキットは入手できたため、次年度には測定可能である。
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