研究課題/領域番号 |
17K11089
|
研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
日高 正剛 大分大学, 医学部, 講師 (00404385)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 心臓手術関連急性腎傷害 / 腎保護戦略 / 血液浄化療法 |
研究実績の概要 |
心臓手術では,人工心肺に起因した急性腎傷害が死亡率の増加に関連しており,その対策が喫緊の課題となっている。私たちはこれまでに,重症病態における臓器傷害には,炎症性サイトカインに加えて,酸化ストレスが大きく関与することを発見した。さらに,治療法として血液浄化療法に着目し,抗炎症作用および抗酸化作用に優れた施行方法,血液浄化膜(新規合成ビタミンE誘導体ETS-GS固定化膜)を開発した。本研究では,これらの成果の臨床応用に向けて,心臓手術関連急性腎傷害の発症メカニズムを明らかにし,人工心肺中に血液浄化療法を組み込んだ腎保護戦略を確立することを目的としている。 昨年度までの研究実績として,当施設における過去3年間の心臓手術後患者744名のデータを後ろ向きに調査して,CSA-AKIの発症状況および危険因子,患者転帰について検討した。結果は,発症率が約30%で,生命予後の悪化と関連しており,多変量解析により危険因子として緊急手術,術式,人工心肺時間が示された。 次年度は,この結果を基にCSA-AKI発症リスクの高い術式の患者群を対象として,人工心肺中に血液浄化療法を組み込み,ろ過,透析による炎症性サイトカイン除去,吸着による活性酸素除去により,人工心肺による臓器傷害が軽減するのかを検討していく予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
研究初年度は,これまでの当施設における基礎研究成果の臨床応用に向けて,過去3年間の心臓手術後患者744名のデータを後ろ向きに調査して,CSA-AKIの発症状況および危険因子,患者転帰について検討した。それにより,自施設の状況として,CSA-AKI発症が生命予後悪化と関連しており,危険因子に人工心肺の関与が大きいことが示され,次年度からの臨床研究につながるデータが得られた。これを基に,次年度以降の臨床研究を順調に進めていくことが可能であると考えていた。 しかし,昨年4月1日から新たに施行されるようになった臨床研究法への対応のため,当施設の臨床研究審査委員会が審査業務を休止している期間が長かったこともあり,介入研究への移行が難航している。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は,CSA-AKI発症リスクの高い術式の患者群を対象として,人工心肺中に血液浄化療法を組み込み,ろ過,透析による炎症性サイトカイン除去,吸着による活性酸素除去により,人工心肺による臓器傷害が軽減するのかを検討していくことを予定ししている。 まずは,抗炎症および抗酸化効果を最大限期待できる現存の血液浄化膜(透析膜)を用いた介入試験を企図しているが,人工心肺回路への組み込みは適応外使用となっており,特定臨床研究に該当するため,倫理的,資金的に実施困難となる可能性も考えられる。その場合は,従来使用の血液浄化膜において,血液浄化量を増減することで抗炎症および抗酸化効果を向上させる代替案を検討する。 血液浄化療法の施行方法と,抗炎症,抗酸化作用の関連性,患者予後の改善効果を明らかにしていくには,炎症性サイトカイン,酸化ストレス解析が本研究遂 行における重要課題だと考えている。各種解析においては,第一に現在大分大学内のバイオラボセンターに実験に必要な大型機器の設置が進んでおり,昨年度同様に本施設をうまく活用することで,実験を効率的に行うことを心がける。第二に,すでに当教室が保有している実験機器を最大限駆使する。以上の基本方針のもと時間とお金の無駄を省き,研究年度内での完了をめざし実験を遂行していく。実験途中で生じた疑問点などについては,大学内外の専門家に適宜アドバイスをいただきながら,研究を進めていくこととする。
|
次年度使用額が生じた理由 |
昨年度までは,自施設の過去3年間の心臓手術後患者の後ろ向き観察研究が主体であったため,使用額はデータ解析に必要な物品にとどまり,繰越金が生じた。 しかし,次年度は,人工心肺中に血液浄化療法を組み込み,ろ過,透析による炎症性サイトカイン除去,吸着による活性酸素除去により,人工心肺による臓器傷害が軽減するのかを検討していく。繰越金は,血液浄化療法関連物品,サイトカインや酸化ストレス測定キットなどに使用することになっている。
|