超高齢化社会となった本邦では、高齢のがん患者の増加が予想されるため、がん患者における術後認知機能障害(POCD)発症の研究は、今後の術後管理において重要である。本研究では、がんにおける吸入麻酔薬によるPOCDの発症機序の解明を動物モデルで行い、ヒトでの予防法の確立を目的とした。 昨年度までに、麻酔条件と新規物体認識試験の条件が整い、行動試験の動画の自動解析を試みたが完全な自動化には及ばず、補助的に動画解析ソフトを使用した画像解析が行えるようになった。そこで今年度は、C57BL6/Jマウスの右背側部皮下へマウスメラノーマ細胞を接種し、がんモデルを作製した。対照群には細胞培養の培地のみを皮下投与した。これらのマウスで、がん接種後3日目と6日目に新規物体認識試験を行ったところ、6日目のがん細胞接種群で認知機能障害を認めた。接種後10日目に血清を採取し、ELISAで炎症性サイトカインを確認したが、上昇は認めなかった。 がん細胞接種のみで認知機能障害が起きたため、POCDについてはがん同様に高齢者で罹患率の高い2型糖尿病のモデルマウスであるTSOD(Tsumura Suzuki Obese Diabetes)マウスでの検討を実施した。17週齢のTSODマウス(コントロール群としてTSNOマウスを使用)に吸入麻酔薬のイソフルランで麻酔を実施した。麻酔から2日後に、新規物体認識試験を再度実施し、認知機能障害を認めたため、これをPOCDモデルとした。また、POCDがどの程度遷延するのか、あるいは回復するのかを検討するため、麻酔後2回目の検討時期を7日目に変更して新規物体認識試験を実施した。その結果、認知機能障害を認めたため、POCDが持続していることが分かった。 以上の結果を用いて、認知機能障害、POCD発症のメカニズムの解明について、今後も検討を進める予定である。
|