研究実績の概要 |
脂質メデイエーターによる炎症細胞活性化が、脊髄レベル、末梢神経レベルでどのような変化をもたらすか解明し、それらを適切な時期に制御することにより炎症反応由来の難治性疼痛の増悪を阻止し効果的な治療法を開発することが、本研究の目的である。複合性局所性疼痛症候群に発展する可能性のある術後痛モデルについて、脂質メデイエーターとの関連を解析した。マウス足底小切開による術後痛モデルを作成し、術前、足切開3時間後、足切開1日後、足切開7日後の足底組織を採取し、高速液体クロマトグラフィー・タンデム質量解析(LC-MS/MS)による一斉定量系を用いて脂質メデイエーターを定量解析した。切開前と比較しシクロキシゲナーゼ(COX)系脂質(PGE2, PGD2, PGF2alpha, PGI2, TXB3, 12HHT)リポキシゲナーゼ(LOX)系脂質(LTB4, LTC4) HETE類(12HETE, 5HETE, 15HETE)は増加傾向を認め、術後3時間でPGE2, PGD2, LTB4が有意に増加した。抗炎症作用があることが知られている脂質エイコサペンタエン酸EPA由来脂質12HEPEは術後3時間で高値であった。術後創傷部で炎症と抗炎症それぞれの脂質産生と脂質シグナルのバランスが創傷状態に関与し、術後痛に影響していることが示唆された。 脂質メデイエーターの中でも神経障害性疼痛に強く関与している脂質リゾホスファチジン酸LPAの急性痛と腰部脊柱管狭窄症への関与について、産生経路とともにさらに検討した。ホルマリン足底注入による急性疼痛反応がLPA受容体拮抗薬投与に抑制され、急性痛においてもLPAシグナルが関与していることが分かった。ラット腰部脊柱管狭窄症モデルにおいては脳脊髄液中で有意に各LPA分子種と分子種に対応するLPA前駆体LPCの増加が認められ、髄液中のLPA産生酵素オートタキシン(ATX)によりLPCからLPAが産生され疼痛に関与していることが分かった。
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