研究課題
前年度までに、細胞内Ca変動(活動電位の発生)を測定するための最適な条件を確立することができた。最終年度は、「末梢神経損傷によって脊髄後角細胞の興奮性が増強しているはずである」という仮説を検証するために、腰髄L5レベルで左右両方の後根を後根を付した脊髄スライスを作成し、両側の後根を同時に電気刺激して後角細胞に誘発される細胞内Ca2+変動の大きさが神経損傷側が対側と比べてより大きくなっているか検証した。この方法を使えば、スライスの出来具合や染色の状況による変動を除外し、両側同じ条件で比較できるはずである。末梢神経損傷モデルは、坐骨神経の3分枝のうち、脛骨神経と腓骨神経を結紮切断し、腓腹神経のみを温存するというSpared Nerve Injury(SNI)モデルを用いた。このモデルでは神経損傷後、1週間以内に腓腹神経領域への触刺激による逃避閾値が大幅に低下する。従って、行動実験的には神経損傷側の脊髄後角細胞の興奮性が増強していることが予想された。このモデルから、脊髄を摘出し、L5神経根刺激による両側の脊髄後角細胞の細胞内Ca2+上昇を比較した。正常側では、後根刺激による細胞内Ca2+上昇は蛍光強度変化率1.5~2.5%で記録することができたが、スライスによって1%程度の変動があることもわかった。しかし、正常側をコントロールとした場合、神経損傷側の反応はすべてのスライス(n=32)で減少していることが判明した。正常側と比較した(100%とした)場合、損傷側の反応は33%~64%(46±7 % of control)であり、どのスライスでも例外なく、神経損傷側の反応が低下していることがわかった。以上の結果から、「末梢神経損傷により脊髄後角細胞の興奮性が増強し、それによって神経障害性疼痛がおこる」というこれまでの考え方が必ずしも正しくないことが明らかになった。
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