今回の研究では行動薬理学的実験とパッチクランプ法を用いた電気生理学的実験とを同時並行で実施した。 1.行動薬理学的実験 脊髄におけるML297の鎮痛効果を評価した。生体ラットの脊椎くも膜下腔にカテーテルを挿入し、数日後に経カテーテル的にML297を髄腔内投与することでML297がラットの侵害刺激に対する逃避行動にどのような影響を及ぼすかを検討した。機械的侵害刺激に対する逃避閾値を測定したところ、髄腔内投与されたML297は用量依存性に機械的侵害刺激に対する逃避閾値を増大させた。更に、さらにML297は逃避閾値を増大させるML297の用量を髄腔内投与しても運動機能に影響を与えないことを明らかにした。これらの結果から、ML297の髄腔投与は運動機能に影響を与えることなく、鎮痛作用をもたらすことが示唆された。 2.電気生理学的実験 ML297が脊髄後角細胞を過分極させることを予備実験で見出しており、この現象がGIRKチャネルの活性化によるものなのか否かを検証した。脊髄スライス標本を用い、脊髄後角細胞からパッチクランプ記録を行った。電位固定法により、ML297により生じる外向き電流が用量依存性に増大することを明らかにした。またML297作動性の電流の電流-電圧関係を求めた結果、ML297作動性電流の平衡電位はカリウムチャネルと同等であることが明らかとなった。また、μオピオイド受容体拮抗薬のナロキソン存在下においても外向き電流を発生することが明らかになった。さらに、ML297は興奮性シナプス後電流の発生頻度を減弱させることも明らかとなった。以上の結果からML297はGIRKチャネルに作用して脊髄後角細胞を直接的に過分極させる作用とシナプス前性のGIRKチャネルに作用してグルタミン酸の放出を抑制する作用の2つのメカニズムにより鎮痛効果を発揮することが示唆された。
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