研究課題
進行前立腺癌における転移の大部分は骨転移であるが、ひとたび転移を起こすと根治は困難となる。近年、様々な癌でCCL2などのケモカインが癌の進展・増悪に関わることが報告されているが、前立腺癌におけるケモカインの役割は未だ不明な点が多い。まず、ヒト前立腺癌細胞株LNCaP、LNCaP-SF、PC-3、ヒト骨芽細胞様細胞株SaOS2、正常骨組織および前立腺癌骨転移組織から初期培養した骨間質細胞を使用し、癌細胞と骨関連細胞の共培養を行うことによって、癌細胞の遊走能・増殖能の変化を調べた。骨関連細胞により、アンドロゲン受容体(androgen receptor: AR)陽性の前立腺癌細胞の遊走能が亢進した。骨転移組織からの骨間質細胞は特に強く前立腺癌細胞の遊走能を亢進させた。しかし、一方で増殖に関してはほとんど影響を与えなかった。サイトカインアレイの結果から、CCL5が遊走能亢進の原因であると考えられた。CCL5は、骨転移を有するCRPC患者で血清値が上昇するという報告があり、前立腺癌の転移あるいはADT耐性獲得に関与する可能性がある。しかし、CCL5の前立腺癌における役割は未だ詳細には明らかにされていない。CCL5の添加により濃度依存性にLNCaPの遊走能が亢進した。ARをノックダウンしたLNCaPはコントロールと比べ遊走能が亢進したが、CCL5を加えてもそれ以上の遊走能の亢進は認められず、CCL5はARシグナルの上流に位置すると考えられた。免疫組織化学染色では、CCL5の受容体であるCCR5は正常前立腺組織より前立腺癌組織で高発現していた。前立腺癌骨転移巣では骨間質細胞から分泌されるCCL5が前立腺癌細胞の遊走能を亢進させることが明らかとなった。
1: 当初の計画以上に進展している
3年間の予定を100%とした場合、60%程度と考えられる。今後、骨組織以外におけるCCL5の役割についてメカニズムを含むin vitroの実験のと、in vivoの実験を予定している。予定されていた実験の中では、大方の実験は順調に進んでいると考えられる。
CCL5が薬剤耐性に関与する可能性がを明らかにしていく。また、アンドロゲン受容体(AR)は活性化状態で免疫抑制、つまり、ケモカインの分泌を抑制していると考えられるが、CCL5がARの下流であるかどうかを検証する。CCL5を制御しているメカニズムや免疫細胞でCCL5が分化や遊走を誘導するメカニズムを、シグナルの遮断などを通して明らかにする。
一部の細胞株ではまだ実験が行われておらず、また、予定していた抗体も購入していないため残額が生じている。これらをより深いメカニズムの探索のため、サイトカインアレイを追加して行う費用に充てる予定である。
すべて 2018
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
Cancer Science
巻: 109 ページ: 724-731
10.1111/cas.13494.