研究課題/領域番号 |
17K11128
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
小中 弘之 金沢大学, 医学系, 協力研究員 (40334768)
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研究分担者 |
角野 佳史 金沢大学, 医学系, 准教授 (10397218)
泉 浩二 金沢大学, 附属病院, 講師 (80646787)
北川 育秀 金沢大学, 医学系, 協力研究員 (00452102)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 去勢抵抗性前立腺癌 / 再燃メカニズム / シグナル伝達系 / NF-κB / 免疫チェックポイント分子 / クロストーク / 複合がん免疫療法 |
研究実績の概要 |
去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)に対する新規治療法の確立には,再燃メカニズムの解明が必要不可欠である.これまで我々はそのメカニズムとしてシグナル伝達系の転写因子:NF-κBの活性化に焦点を絞って研究をすすめてきた.今回我々は,近年知見が集積されつつあるがん免疫逃避機構の観点から,"アンドロゲンの除去(去勢)に伴い顕在化するCRPCにおいては,免疫抑制的ながん微小環境が惹起されている"という仮説のもと,再燃メカニズムの1つとしてがん免疫抑制経路に着目したアプローチを展開すると共に,最近脚光を浴びている免疫チェックポイント分子を標的としたCRPCに対する免疫療法の可能性を検討する.本研究の究極的なゴールは,CRPCに対するNF-κB阻害剤と免疫チェックポイント阻害剤との併用による包括的治療戦略を構築し,この新規複合がん免疫療法を臨床応用まで昇華させることにある.平成29年度の研究予定は,前立腺癌における免疫チェックポイント分子の発現プロファイル,発現ベクターの構築,免疫チェックポイント分子とNF-κBのクロストーク,NF-κB活性化の抑制による殺細胞効果とし,主としてin vitroでの実験を計画していた.そのうち,前立腺癌における免疫チェックポイント分子の発現プロファイルの部分的遂行として,アンドロゲン依存性前立腺癌株LNCaP,アンドロゲン非依存性前立腺癌株PC-3,DU145,正常前立腺上皮細胞PrEC,および正常前立腺間質細胞PrSCにおけるPD-L1とMHC-Iの発現について,RT-PCR法を用いたmRNAレベルの検討を実施した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
前立腺癌株 (LNCaP,PC-3,DU145)や正常前立腺株(PrEC,PrSC)におけるPD-L1とMHC-Iの発現プロファイルについは,RT-PCR法を用いたmRNAレベルの検討はできたが,フローサイトメトリー法を用いたタンパク質レベルでの検討はできていない.LNCaP-SF細胞及びLNCaP-p65細胞を用いた検討もできていない.癌化ヒト組織アレイ Human Neoplastic Tumor Tissue Microarrayシリーズ(タカラバイオ社)の前立腺版を用いた,免疫染色によるNF-κB p65,PD-L1,MHC-Iの発現,局在の解析も未施行である.また,免疫チェックポイント分子とNF-κBのクロストークの検討として,FNγ投与によるPD-L1とMHC-Iの発現増強やNF-κBの活性化によるPD-L1とMHC-Iの発現誘導に関する実験も未着手の状態にある.さらには,NF-κB活性阻害によるin vitro殺細胞効果と抗PD-L1中和抗体によるT細胞活性化に関する実験についても未施行である.従って,免疫チェックポイント分子とNF-κBのクロストークの検討,NF-κB の活性阻害による in vitro 殺細胞効果の検討,および抗PD-L1中和抗体によるT細胞活性化の検討は次年度以降となる
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今後の研究の推進方策 |
まず,前立腺癌化ヒト組織アレイにおけるNF-κB p65,PD-L1,MHC-Iの発現および局在を検討する.次に,各細胞株にIFNγを添加した際のPD-L1とMHC-Iの発現亢進の有無をRT-PCR法とフローサイトメトリー法を用いて検討するとともに, IFNγ添加による各細胞株におけるNF-κB転写活性の誘導についても検討する. NF-κB転写活性についてはNF-κBプロモーター活性,Western-blot法,免疫染色を用いて調べる.また,NF-κB p65を各細胞株に過剰発現させることによるPD-L1とMHC-Iの発現亢進をRT-PCR法とフローサイトメトリー法を用いて検討する. NF-κB活性を効率良く阻害するかについては,1) ドミナントティブ,2) デコイ,3) siRNA, 4) プロテアソーム阻害薬を用いて, LNCaP-SF細胞及び LNCaP-κB細胞を用いて,in vitro における殺細胞効果を WST-assay にて比較検討する.さらには,T細胞レセプター(TCR)活性化因子とヒトPD-L1を共発現させるベクター(BPSバイオサイエンス社) をLNCaP細胞にトランスフェクション後,エフェクター細胞としてPD-1/NFAT Reporter/Jurkat T細胞(BPSバイオサイエンス社)と共培養した結果, NFAT応答性ルシフェラーゼ活性が抑制されること確認したうえで,抗PD-L1中和抗体 (BPSバイオサイエンス社)の添加によるNFAT応答性ルシフェラーゼレポーターの再活性化を検討する.
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度は,計画していた研究の進捗に大幅な遅れがあったために,本年度に使用予定であった研究費に残高が生じてしまい,次年度以降の研究費として繰り越されることになった.特に,大部分の研究費を要すると予想された癌化ヒト組織アレイ Human Neoplastic Tumor Tissue Microarray シリーズ(タカラバイオ社)の前立腺版を用いた転写因子の発現および局在の検討や,業者に作製を委託するsiRNA を用いたNF-κB の活性阻害による in vitro 殺細胞効果の検討が未施行であったことが,次年度使用額が生じた理由として大きいと考える.本年度の残額は、引き続き上記研究の試薬の購入に充てる. 平成30年度以降は,今年度の反省を踏まえて,迅速な研究計画の遂行と研究費の効率的な運用を心がける次第である.
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