研究課題/領域番号 |
17K11170
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研究機関 | 独立行政法人国立病院機構(呉医療センター臨床研究部) |
研究代表者 |
岩本 秀雄 独立行政法人国立病院機構(呉医療センター臨床研究部), 泌尿器科, 医員 (50597929)
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研究分担者 |
松原 昭郎 広島大学, 医歯薬保健学研究科(医), 教授 (10239064)
亭島 淳 広島大学, 医歯薬保健学研究科(医), 准教授 (20397962)
本田 浩章 東京女子医科大学, 医学部, 教授 (40245064) [辞退]
池田 健一郎 広島大学, 病院(医), 医科診療医 (50624863) [辞退]
林 哲太郎 広島大学, 医歯薬保健学研究科(医), 助教 (60612835)
中田 雄一郎 広島大学, 原爆放射線医科学研究所, 助教 (90793430)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | Jmjd3 / Utx / 前立腺癌 / 遺伝子改変マウス |
研究実績の概要 |
今年度は、Jmjd3 cKIマウスに発癌促進目的にp53ヘテロ欠失(p53+/-)を交配させ、Jmjd3 cKI,p53+/-を得た。更に前回と同様にHigh fat diet (HFD)を一定期間投与し、表現型の獲得を試みた。HFDの投与期間については十分長期の内服が必要と考えられたが、8ヵ月の投与で全てのマウスが高度の脂肪肝を呈し、一部のマウスは因果関係が否定できない突然死を迎えていた事から、最大でもこれまで同様の8か月程度が限界と思われた。現在Jmjd3 cKI,p53+/-マウス、対照群となるCtrl,p53+/-マウスに高脂肪食投与を行っている。 また、表現型獲得が困難であった場合に備えて、我々は本研究と平行してJmjd3と同じヒストンH3K27脱メチル化酵素であるKDM6A(UTX)にも着目した。Utxは、Jmjd3と同じ機能ドメイン(JmjCドメイン)を持つ一方で、その上流に、Jmjd3には存在しないTPRドメインを併せ持つ。更にKMT2D等とCOMPASS-like complexと呼ばれる複合体を形成する事で、H3K4のメチル化にも関与する事が示されている。 UTXは前立腺癌においては機能欠失型変異が10%程度報告されている。これはUtx変異が報告されている全癌腫のうち、3番目に高い頻度である。そこで我々はUtxのTPRドメイン上にあるexon11, 12をloxP配列ではさんだUtx floxedマウスを作製し、前立腺特異的CreであるPb-iCreを交配させる事で、Utx conditional KO (cKO) マウスを得た。 このUtx cKOマウスを用いて、Jmjd3 cKIマウスと同様の解析プランを実行予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度の報告書に記した通り、当初の予定よりもエピジェネティック遺伝子を用いた前立腺癌の表現型獲得は困難であると考えられる。しかしながら、昨年度の「今後の研究の推進方策」に記載した内容、すなわちJmjd3 cKIと、より表現型を得やすいと予想されるp53+/-マウスとの交配によるJmjd3,p53+/-マウスの作製及び、Jmjd3と同じH3K27脱メチル化酵素であるUTXの機能欠失を模倣したUtx cKOマウスの作製を予定通り行う事が出来た。UtxはX染色体上に位置し、またJmjd3には存在しないTPRドメインを持つ。TPRドメインは他の蛋白とのInteractionを担うと考えられており、欠損する事で例えばCOMPASS-like complexの形成不全をきたす事が予想される。UtxcKOマウスに表現型が出現した場合は、H3K4メチル化の脱制御またはメチル化非依存的な遺伝子制御が癌化に関与している事が予想される。 このUtx cKOマウスにも、p53+/-マウスを交配させ、更にHFD投与を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
Jmjd3 cKIに加え、Utx cKOマウスについても同様に早期の前立腺癌発症を目的としたp53+/-マウスとの交配を行う。また、通常飼料またはHFDを一定期間投与したのち、前立腺を解剖学的部位ごと(AP, VP, LP, DP)に採材し、過形成、PIN(前癌病変)または腺癌の有無と局在を比較検討する。また、表現型が得られた場合は対照群と比較したゲノム解析を行う予定である。 上記内容にて解析を行い、表現型が得られなかった場合を想定する必要性がある。そこで我々は次に、H3K27脱メチル化酵素UTXに対してY染色体上の男性特異的パラログであるKDM6C (UTY) に着目している。近年、このUTYが、前立腺の分化と前立腺癌に重要な役割を持つNKX3.1遺伝子の活性化に重要であり、前立腺分化に不可欠であるとの報告がなされている。これはUTYによる遺伝子発現制御の破綻が前立腺の癌化にも関与する可能性を示すものであり、Utx cKOにUty機能欠失を追加する事で癌化を誘導できる可能性がある。今後、Uty floxedマウスの作製を検討する。
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