我々の研究グループでは従来、臨床応用を念頭に再生医療の基礎研究を進めており、低活動膀胱に対する新しいアプローチとしての膀胱再生を目指した基礎研究もそのひとつである。本研究の目的は、膀胱収縮力獲得を目的とした尿路平滑筋幹細胞の創出、さらに得られた平滑筋細胞の移植による膀胱再生である。具体的な方法としては、組織特異的幹細胞分離法を用いて間葉系幹細胞、排尿平滑筋幹細胞等を分離し、膀胱機能が荒廃した膀胱に移植することにより膀胱収縮、機能改善をはかることである。本年度までの研究実績として排尿平滑筋幹細胞株樹立へ向けた基礎実験を行ない、また、各種幹細胞を用いた尿路平滑筋細胞分化への基礎的な実験を行なってきた。これまでの研究により、間葉系幹細胞系列の幹細胞の人工的誘導、および、組織特異的幹細胞分離法を用いての間葉系幹細胞または排尿平滑筋幹細胞の分離のための基礎研究において、一定の成果が得られた。さらに本年度は、より排尿機能に即した研究、すなわち排尿筋機能改善の観点からのin vivo研究を実施するために、種々の動物モデルの作成に取り組んだ。まずラットを用いた頻尿モデル、および、低活動膀胱モデルを作成するための予備研究を開始した。これらの病的排尿モデルでは経時的に排尿回数をモニターすることが必須であり、そのためにラットの排尿回数を適切に評価する実験系を立ち上げた。また、将来的なイヌを用いた膀胱機能再生医療の研究実施の可能性を模索するべく、内視鏡的にイヌの膀胱頸部、膀胱三角部および膀胱体部に各種の幹細胞が注入可能かどうか、についての手技的な検討を行い、多くの有用な知見を得た。いずれの動物モデルにおいても、今後、低活動膀胱に対する膀胱再生を目指した基盤研究が実施可能であると判断されることから、引き続き、排尿平滑筋幹細胞株樹立に係る研究も実施していく。
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