研究課題/領域番号 |
17K11187
|
研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
橋谷 光 名古屋市立大学, 大学院医学研究科, 教授 (10315905)
|
研究分担者 |
西川 信之 名古屋市立大学, 大学院医学研究科, 研究員 (30722748)
三井 烈 名古屋市立大学, 大学院医学研究科, 講師 (90434092)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 過活動膀胱 / 粘膜筋板 / 平滑筋 / 活動電位 / 細胞内カルシウム / カルシウム感受性 |
研究実績の概要 |
モルモット膀胱粘膜筋板における自発活動電位の制御機構を検討し、小コンダクタンスCa2+活性化K+(SK)チャネル開口薬が、後過分極を延長させることにより群発型の活動電位を単発型に変換することを示した。また、大コンダクタンスCa2+活性化K+(BK)チャネル阻害薬は後過分極を抑制し、活動電位の振幅と持続位時間を増加させた。一方、粘膜筋板においては、排尿筋の興奮性制御で重要な役割を果たす電位依存性K+(Kv7)チャネルの関与は小さいことが明らかになった。従って粘膜筋板の、単位断面積当たり排尿筋の10倍にも相当する収縮力の一因となる群発型活動電位は、SKチャネルの活性化が排尿筋に比べて低いことによると考えれらた。 粘膜筋板の単位断面積当たりの収縮力の大きさには、収縮蛋白のCa2+感受性増加も関与していると考えて検討を行なった。しかし、この系に関与するRhoキナーゼ、プロテインキナーゼCおよびアクチン重合それぞの阻害薬の効果に粘膜筋板と排尿筋で有意差を認めなかった。標本作成時の筋の伸展程度の違いなどにより、細胞内Ca2+濃度にバラツキが生じることが主因であると考え、対策を行っている。 ブタ膀胱の粘膜筋板と排尿筋の収縮制御機構を比較し、モルモット同様に粘膜筋板はより大きな単位断面積当たりの収縮力を生じること、自発収縮は粘膜筋板において顕著であるが、神経性収縮は排尿筋に比べ圧倒的に小さいことが明らかになった。また粘膜筋板は、既知のごとくヒト膀胱でも確認できたが、実験動物として汎用されるマウスおよびラットには存在せず、膀胱機能の研究においては動物種の選択に注意を要すると考えられた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度に予定した研究計画のうち、粘膜筋板における活動電位の制御機構については、研究実績の概要で述べた通り、3種類のK+チャネルの役割を明らかにし、また排尿筋との類似点、相違点を示した。この成果は既にEur J Pharmacol誌において発表されている。一方で収縮蛋白のCa2+感受性増加につての検討は、予備実験段階において認められていた粘膜筋板と排尿筋の差が、例数を重ねるにつれ有意でなくなり、現在対処法を検討している。 Ca2+感受性の検討が予定通りに進まなかったため、平成30年度の実験計画を一部前倒しして、ブタ膀胱での粘膜筋板と排尿筋の収縮制御機構の検討を開始した。その結果、研究実績の概要で述べた基本的な情報が得られ、また粘膜筋板の種差につても確認することができた。この結果についてはNeurourol Urodyn誌において先行報告し、現在その後確認された現象、結果と合わせて論文を作成している。 平成30年度のもう一つの実験計画であったIn vivo膀胱血流測定についても、既に麻酔薬の選択や膀胱の血管を観察する際の排尿筋の自発収縮による影響の制御法について基礎的な情報が得られており、全体として遅れた計画と前倒しした計画で相殺され、ほぼ予定通りの進行状況であると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
粘膜筋板における活動電位の制御機構については、モルモットでの検討はほぼ終了したので、今年度はブタでの実験を開始する。またモルモットおよびブタにおいて、粘膜筋板と共在する粘膜血管のカルシウム動態の検討も開始する。 In vivo膀胱血流測定は、現在までラットで実験行なっているが、ラットにおいては粘膜筋板が存在しないことが示されたので、今後はモルモットでの実験に引き継ぐ予定である。 ブタ膀胱での粘膜筋板と排尿筋の機能比較は、現在in vitorでの神経性制御、アンジオテンシンへの応答性および伸展に伴う粘膜依存性の制御などについて興味深い知見が得られているので、今年度内の論文発表を目標に研究を継続する。 Ca2+感受性を正確に比較するためには、他の条件とりわけ細胞内Ca2+濃度や標本の伸展度合いをいかに均一にするかが要点となると考えらえる。引き続き実験条件の調整を行い、他の研究計画と大きな時間差が生じることがないように務める。
|
次年度使用額が生じた理由 |
Ca2+感受性およびアクチン重合についての研究計画が、収縮実験の段階で予想とは異なる結果が出たため、以降に予定していたウェスタンブロッティングや蛍光免疫染色など、比較的高額な抗体などを使用する実験を行わなかった。また代替えとして次年度から前倒しして行なった実験では、ブタ膀胱(食肉処理施設から購入)やモルモットに比べ安価なラットを使ったため、当初の計画よりも大幅に支出が抑えられた。さらに、本研究計画に関連して取得した他の財源が、いずれも単年度決済で繰越使用できないものであったため、それを優先して使用したことも、比較的大きな次年度使用額が発生した理由である。
モルモット膀胱でのCa2+感受性およびアクチン重合についての研究計画が、標本条件の均一化により収縮実験で当初想定した結果が得られれば、主にウェスタンブロッティングや蛍光免疫染色などに使用する。上手くいかない場合には、ブタ膀胱で得られた興味深い現象の解明を進めるため、ブタ膀胱での免疫染色などに使用する。またin vivo微小血管径計測に必要な試薬、動物などの購入に充てる。
|