研究課題/領域番号 |
17K11187
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
橋谷 光 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 教授 (10315905)
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研究分担者 |
西川 信之 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 研究員 (30722748)
三井 烈 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 講師 (90434092)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 膀胱 / 粘膜筋板 / アンジオテンシン / 交感神経 / PDGFRα / 微小血管 |
研究実績の概要 |
種差による膀胱粘膜筋板の有無と粘膜収縮性の関係性から、粘膜筋板が粘膜の収縮要素であることを明らかにし、交感神経は排尿筋、粘膜筋板いずれにおいても直接的に筋弛緩を生じないことを論文発表した。 ブタ膀胱においてアンジオテンシンII(ATII)は、1nMから粘膜筋板を収縮させ、その作用はATR1拮抗薬であるCandesartanにより完全に抑制された。またATIIは粘膜筋板の自発カルシウムトランジェントの頻度を10pMから促進した。一方、排尿筋ではATIIによる収縮は10μMにおいてもカルバコール収縮の10%程度であり、ATIIの膀胱の収縮要素に対する効果は、粘膜筋板において圧倒的に優位であることが示された(投稿中)。 マウスおよびモルモット膀胱のPDGFRα(+)細胞は、排尿筋層ではSK3チャネルを発現するが、粘膜では発現していなかった。排尿筋層のSK3(+)PDGFRα(+)細胞は自発的およびP2Y受容体刺激に応答して細胞内カルシウム濃度上昇を示したが、隣接せず排尿筋平滑筋の自発カルシウム上昇を抑制しないことを論文発表した。 PDGFRα(+)細胞はマウス腎盂にも分布しており、腎盂近位部から腎杯の筋層に分布するSK3(-)PDGFRα(+)細胞は、従来非定型平滑筋細胞として認識されて来た腎盂尿管蠕動のペースメーカー細胞と同一の細胞であると考えれられた。またマウス精のう粘膜にはSK3(-)PDGFRα(+)細胞とPDGFRα(-)細胞が分布しており、いずれもP2Y受容体刺激に応答して細胞内カルシウム濃度上昇を示した(リバイス中)。 マウス膀胱粘膜の細動脈における交感神経性収縮はtadalafil(10nM)およびmirabegron(100nM)により抑制され、これらの薬剤による膀胱機能改善作用には粘膜細動脈の拡張を介した血流増加の関与が示唆された(投稿準備中)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
粘膜筋板は膀胱粘膜の収縮要素であり、交感神経ではなくNO神経により弛緩すること、副交感神経による収縮はわずかであるあることから、粘膜筋板の生理的役割は排尿時ではなく蓄尿時に大きいことを示唆する結果を得た。また、pM濃度のアンジオテンシンにより収縮性が亢進することから、粘膜筋板が高血圧やメタボリック症候群における蓄尿障害に関わっている可能性を示すことができた。これらの結果は、本研究課題の目的に合致するものであり、研究計画に先立つ仮説を一部立証することが出来た。 尿路におけるPDGFRα(+)細胞は消化管の同種の細胞とは異なり、過分極シグナルを送ることで平滑筋を抑制する働きは確認できず、部位によってはSK3チャネルの発現自体を認めないことから、消化管とは別の機能を考慮する必要があることを示した。さらに膀胱壁内の微小血管では、臨床的な血中濃度のtadalafilおよびmirabegronが交感神経性収縮を抑制することから、これらの薬剤の治療標的としては壁外の栄養血管ではなく微小血管を考慮する必要があることを提示できた。これらの結果は、本課題の研究対象である粘膜筋板に隣接する細胞群の生理学的および薬理学的特性を示したものであり、粘膜筋板の機能維持環境を考慮する上で重要な知見が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
投稿中およびリバイス中の論文をアクセプトさせるとともに、tadalafilの血管作用をテーマとした論文についても早期に投稿を進める。延期となった国際コンチネンス学会、10月開催予定の排尿機能学会および環太平洋コンチネンス学会などで研究成果発表を行う。2020年4月から新たに採択・開始された研究課題に引き継ぐために、既に確認したアンジオテンシン同様に膀胱粘膜と排尿筋の収縮性に異なる作用および作用濃度を有する生理活性物質および薬剤の検索を引き続き進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
ブタ膀胱(食肉処理施設から購入、単価500円)および学内実験動物センターで繁殖飼育しているマウスを使って主に実験を行なったため、動物購入費が大幅にが抑えられた。また2020年3月に共同研究および学会でのシンポジウム共催のため来日する予定であった海外の研究者がコロナウイルス感染拡大のため来日中止となり、関連する予算が執行されなかったため。 蛍光免疫染色の抗体、機能的実験における試薬購入などに使用する。また正立蛍光顕微鏡の水浸レンズのクリーニング費用など、機器の整備に使用する。
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