研究課題/領域番号 |
17K11202
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研究機関 | 札幌医科大学 |
研究代表者 |
田中 俊明 札幌医科大学, 医学部, 講師 (50398327)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | heat shock protein / allograft / allorejection / heart transplantation / graft survival / graft perfusion |
研究実績の概要 |
マウス異所性心移植モデルにおいて、レシピエントに対するHSP90阻害剤である17DMAGの腹腔内投与により、同種移植片の生着期間が有意に延長することを確認した。移植片中の炎症性サイトカインの産生低下、およびT細胞プライミングが抑制されていることが明らかとなった。また、移植片ではHLA class I抗原の発現が低下し、一方、MHC class IIの発現に変化がないことを見いだした。HSP90阻害剤による移植片生着延長効果のメカニズムとして、1)免疫細胞の増殖抑制、2)移植片での抗原提示の抑制、の二通りが考えられた。 さらに、移植片の摘出時に17DMAGを還流し心移植を行い、その後はレシピエントに治療を行わず観察したところ、レシピエントに対する治療と同様に、5-7日間の移植片生着延長効果を認めた。このモデルにおいても、移植片組織内への好中球、樹状細胞などの炎症細胞浸潤の抑制、炎症性サイトカインであるIL-6産生の抑制が見られた。またMHC class I分子のmRNAレベルでの発現亢進が見られた。炎症性サイトカインの動きとしては、IL-2とIl-12p40は5日目に著明に抑制が見られた。一方、INFg、IL-1b、TNFaでは抑制は見られなかった。 この結果から、HSP90阻害による移植片生着延長効果の主たるメカニズムは上記の2)であることが示唆された。17DMAGによる移植片灌流処置は単に虚血再灌流傷害の抑制や自然免疫の抑制だけでなく獲得免疫の抑制効果も見られると考えられ、同種臓器移植における治療戦略として有望であるものと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
マウス心移植モデルにおける研究は概ね計画通りに進んでいる。HSP90阻害剤移植片灌流の研究が望ましい所見を得ているため、この研究を重点的に進めた。一方、マウス腎移植は手技が安定せず、一定の結果が得られていない。また臨床検体を用いた免疫染色については、拒絶反応を認めた症例がなかったために、研究が進んでいない。MHC class II不一致移植モデル、F1交雑種使用移植モデルの作成も行っていない。総じて、当初の研究計画よりはやや遅れているものと判断する。
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今後の研究の推進方策 |
マウス腎移植を行い、研究を進めていく。また、HSP90阻害剤移植片灌流の研究では有望な結果が得られているので、当初の予定よりも重点的に研究を進めていく。現在のマウス心移植の検体数を増やし、また解析項目を増やし、論文とするための十分なデータを蓄積し、発表のための準備を進めていく。
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