乳がん患者の妊娠・出産に関する話題が注目を集め、生殖年齢の女性がん患者の場合、治療時に妊孕性温存について患者と協議する道筋が示されるようになった。しかし、男性がん患者の場合には、治療担当医と患者の間で十分に情報が共有されているとは言いがたい状況であると考えられた。そこで、妊孕性温存に関して、がん治療を担当する医師がどのように、考え・実際妊孕性温存に関する情報を患者に提供し・実際に妊孕性温存のために行動を起こしているかを、首都圏の血液がん治療施設を対象にして、213人に新規血液がん患者の治療に関してアンケート調査を行った。 この結果、治療開始前に精子凍結保存が必要であると95.4%が認識していた。患者に対しては68.2%で情報を伝えており、その時期は治療開始前が過半数を占めた。これらの患者の中で、実際に精子凍結保存を行ったのは28.6%にとどまった。男性がん患者に対する妊孕性温存のリテラシーは不十分であると結論された。成果は、Int J Hematlo. (2017)105: 349に公表された。 次に、精子形成開始前の男児に対する妊孕性温存の要求が、小児がん治療医から寄せられる事が多くなった。精子形成開始前の精巣組織を凍結保存し、in vitroで精子形成が得られる技術の確立を最終目標として、マウスモデルで幼弱精巣組織の凍結方法の改良が行われた。凍結-融解後に器官培養により完全体外培養で精子形成の可否を、評価法基準として研究が行われた。その結果、緩慢凍結方の場合は、白膜を除去し凍結保護材はDMSO+Sucroseが、ガラス化法による凍結保存の場合は白膜除去しStemCell Keepを用いるのが、最も効率よく精子形成を誘導可能であるとの結果を得た。 現在、ヒト精巣で同様の検討を開始するために、完全体外培養で幼弱ヒト精巣組織から成熟精子を得る方法の確立に向けた研究を継続中である。
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