先行研究により、PKXを欠損したトロフォブラスト細胞 (TB) では、野生型TBと比較してリン酸化AKTの発現が著しく亢進する事が明らかとなっている。本年度は、PKXによるAKTリン酸化制御機構の解明を目的として、TBならびに胎盤組織を用いた解析を実施した。具体的な成果を以下に示す。
①TBを用いたAKTアイソフォームの解析:AKT1から3のうち、どのアイソフォームのリン酸化がPKX欠損の影響を受けるかを検討した。TBにはAKT1から3の全てが発現しており、いずれも野生型とPKX欠損でトータル量に差はなかった。一方で、リン酸化体に着目すると、PKX欠損により全てのアイソフォームで発現が亢進する事が明らかとなった。 ②胎盤組織でのAKTリン酸化の解析:ウエスタンブロット解析ならびに免疫染色により、TBと同様に胎盤組織においても、PKX欠損によりAKTリン酸化が亢進することを明らかにした。 ③PKXによるAKTリン酸化制御機構の解明:AKTのリン酸化メカニズムについては盛んに研究されており、既知の制御因子が多く報告されている。PKXはプロテインキナーゼであるが、その「欠損」によりAKTのリン酸化が上昇するという結果から、PKXが直接的にAKTをリン酸化するわけではない。そこで、PKXが、a) PI3KやmTORC2といったAKTリン酸化を促進する因子の活性を増強している。または、b) 脱リン酸化酵素PTEN、PP2A、PHLPPなどのAKTリン酸化を抑制する因子の活性を減弱させている。といった可能性を検証した。どの因子がPKX欠損の影響を受けるかを調べるために、TBタンパク溶液中の各因子の活性を測定したが、いずれも野生型とPKX欠損で差が認められず、PKXによるAKTリン酸化制御機構の解明に繋がる手がかりは得られなかった。
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