本研究では、独自に作製したモデルマウスを利用して、周産期障害に関わる新規遺伝子の機能をin vivo、in vitroの両面から解析する計画であった。しかしながら、研究期間の2年目から最終年度にかけて、休職や所属機関の異動により研究を中断せざるを得ない状況が長く続き、予定していた研究計画、特に、繁殖が難しいPKX欠損マウスを用いた動物実験に大幅な遅れが生じた。そこで最終年度は、発生工学技術を駆使することで、可能な限り短期間でPKX欠損マウスの繁殖コロニーの再構築を行いつつ、in vitroの解析を中心に研究を遂行した。研究期間全体で得られた成果を以下に示す。 PKX欠損胎盤は野生型胎盤と比較して2倍以上にまで肥大するが、これは、AKTリン酸化の亢進に伴う胎盤トロフォブラスト細胞の過増殖が原因であり、AKT1から3の全てのアイソフォームが関与していることが明らかとなった。AKTのリン酸化メカニズムについては盛んに研究されており、多くの制御因子が報告されているが、PKX欠損胎盤と野生型胎盤の間で既知の制御因子の発現や活性に差は認められず、PKXによるAKTリン酸化制御機構の解明に繋がる手がかりは得られなかった。さらに、プロテインキナーゼであるPKXの基質同定を目的として、PKX欠損胎盤と野生型胎盤に存在するリン酸化タンパク質をプロテオミクス解析で網羅的に比較したところ、予想に反して明確な差は検出されず、データベース解析により基質の候補を絞り込むのは困難であった。 本研究期間内にPKXが関わるシグナル伝達経路を解明することは出来なかったが、一方で、PKXによるAKTリン酸化制御には、これまでに知られていない新しい因子や経路が存在する可能性を示唆する結果が得られた。引き続き、プルダウンアッセイで直接相互作用する因子を同定する等、別のアプローチで解析を進行中である。
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