早期流産、胎児発育不全、妊娠高血圧症候群は不育症の多様な臨床型を示す。これには絨毛細胞が脱落膜細胞などの母体細胞群に遊走接触する初期の胎盤形成不全や、妊娠中期に高サイトカイン―炎症系ネットワークに惹起された絨毛細胞障害修復不全による胎盤機能不全が重要な役割を演じている。この過程では細胞周囲微小環境におけるヘパリン/ヘパラン硫酸/増殖因子(VEGF、EGF、 HGF、 FGFなど)と、その受容体を介する細胞内シグナル伝達系が絨毛細胞の遊走浸潤や組織修復に重要である。VEGF familyのひとつであるPlGF2はヘパリン結合部位を有し、細胞膜上に豊富に存在するヘパリン/ヘパラン硫酸を足場として、細胞内シグナル伝達系分子により細胞遊走から組織形成過程に関与している。本研究において、ヒト絨毛細胞由来不死化細胞株HTR-8/SV neoを用いて各種検討を行った。PlGF1はWound healing migration assayではコントロールと比較して遊走能の増加を認めなかったが、PlGF2は有意に増加を認めた。また、PAK1phospholylationをWestern blot法により検討したところ、PlGF2はpPAK1 Thr423のリン酸化がコントロールと比較して有意に増加した。また、TNF-alphaといった前炎症性サイトカインはPlGF2の蛋白産生、mRNA発現を抑制することを認めた。こうした結果から、TNF-alphaといった前炎症性サイトカインはPlGF2-VEGF-VEGFR1シグナル伝達系の異常を惹起し、胎盤絨毛細胞組織の修復による胎盤形成機能不全を示し、が妊娠高血圧症候群の病態の一部をなすことを見出した。このことは従来から提示されているsFLT1の産生増加により、VEGFの低下が引き起こされ、その結果、sFLT1-VEGFR1シグナリングの抑制が妊娠高血圧症候群を引き起こすという“two stage disorder” theoryとは異なる機序が存在することを示唆する。
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