研究実績の概要 |
妊娠初期絨毛の妊娠経過に伴うDNAメチル化の生理的変化と環境に伴う影響に着目した。まず、正常の胎芽発育が確認されている妊娠で妊娠中絶時に絨毛を採取し、妊娠経過に伴うDNAメチル化の変化を検討するとともに、妊娠後期の帝王切開後胎盤から採取した絨毛においても正常妊娠例とHDP例でDNAメチル化の変化についてアレイを用いて全ゲノム上の45万CpGサイトを分析し、プロファイリングして比較検討した。その結果、正常妊娠後期と妊娠高血圧腎症で違いから抽出された206のDNAメチル化サイトの中で、細胞増殖に関連する6種類の遺伝子(HOXC4, MAD1L1, NSD1, ZFP36L2, AKT3, NCOR2)に注目し、その遺伝子の発現を正常経過の妊娠6週、11週、妊娠後期とHDP発症後の絨毛で定量し、発現量の変化を多数例で比較した。その結果、それら遺伝子発現は妊娠経過に伴って生理的に発現が上昇し、正常経過の妊娠後期発現量はHDPに比して有意に高値を示すことが確認された。さらに、HOXC4の2か所のDNAメチル化サイトについて、Pyrosequencing法でメチル化の程度を定量化したところ、両サイトともメチル化率は妊娠経過とともに低下していくこと、また、HDP症例ではメチル化率が高いことがわかった。さらに、メチル化率と遺伝子発現量との相関をみたところ、ともに有意な負の相関を示し、遺伝子発現をDNAメチル化が制御していることを確認した。この結果から、妊娠初期絨毛の生理的な機能変化に伴うDNAメチル化の変化が起こらないことが、絨毛細胞の機能的な変化につながり、それが妊娠高血圧腎症の病態のもとを形成している可能性が示唆される。DNAメチル化の異常はさまざまな環境因子の影響を受けると推察され、そのメチル化異常の防止がHDPの発症予防につながる可能性があり、今後の研究の進展が期待される。
|