研究課題
人工ヒト腹膜組織を用いて上皮性卵巣癌腹膜播種モデルを作製し、Carbonyl reductase 1 (CR1) DNA-デンドリマー複合体導入による癌腹膜播種初期動態の変化から、CR1による遺伝子治療効果の機序を明らかにすることを目的に研究を進めた。方法として、1) 人工ヒト腹膜組織に漿液性卵巣癌細胞(HRA)を播種し、播種動態を形態学的に解析した。2) その播種過程をマウスin vivoモデルと比較し、本卵巣癌播種モデルの妥当性を検証した。3) 本モデルにCR1DNAを導入し、癌細胞播種の抑制効果を経時的に解析した。結果として、1) 癌細胞は穿孔を形成しながら中皮層に侵入し、中皮間および中皮下で増殖して集塊を形成した。24時間後にはリンパ管への侵襲がみられ、48から72時間後には癌細胞が集塊を形成しながら組織深部に浸潤していた。2) マウスin vivoモデルにおける癌細胞浸潤では人工ヒト腹膜での所見と形態的類似性が認められ、本in vitroモデルにおける卵巣癌腹膜播種動態の再現性を確認した。3) このモデルに対してCR1DNAを導入すると、人工ヒト腹膜組織上の癌細胞増殖が有意に抑制され、ネクローシスの誘導を示す結果を得た。しかし中皮下への浸潤は抑制されていなかった。人工ヒト腹膜を用いた新たなin vitro腹膜播種モデルにより、CR1導入による増殖抑制とネクローシス誘導を通した卵巣癌腹膜播種抑制効果が示唆された。それらの成果はMorphological analysis of the inhibition of peritoneal metastasis of ovarian cancer by carbonyl reductase 1 in artificial human peritoneal tissueとして論文投稿準備中である。
2: おおむね順調に進展している
平成29年度の目標は、卵巣癌組織型別の至適N/P ratioの確立であり、CBR1とPAMAMデンドリマーの複合体作成はすでに確立されており、細胞内導入効率とその抗腫瘍効果を検討することで至適N/P ratioを調べること、CBR1とPAMAMデンドリマーの複合体の静脈内投与の有効性と安全性を調べること、卵巣漿液性腺癌HRA細胞への至適導入条件はN/P ratio 20:1であるのでこの条件でCBR1 DNA複合体を卵巣漿液性癌性腹膜炎ラットの尾静脈から投与し抗腫瘍効果と副作用(食餌摂取量、体重の推移、排泄状態)を観察すること、人工ヒト腹膜を用いた播種病巣の経時的変化としてCBR1 DNA投与の有無による播種病巣周囲組織の経時的変化を電子顕微鏡で観察するとともにCBR1 DNA投与の有無による腹膜播種の動態をCCDカメラで48時間連続撮影することであったが、癌細胞は穿孔を形成しながら中皮層に侵入し、中皮間および中皮下で増殖して集塊を形成し24時間後にはリンパ管への侵襲がみられ、48から72時間後には癌細胞が集塊を形成しながら組織深部に浸潤していた。さらにマウスin vivoモデルにおける癌細胞浸潤では人工ヒト腹膜での所見と形態的類似性が認められ、本in vitroモデルにおける卵巣癌腹膜播種動態の再現性を確認した。このモデルに対してCR1DNAを導入すると、人工ヒト腹膜組織上の癌細胞増殖が有意に抑制され、ネクローシスの誘導を示す結果を得た、という当初の予想を上回る成果が得られた。
癌細胞の接着、増殖と浸潤、脈管浸潤の各過程における癌細胞の挙動、微小環境の変化をリアルタイムで追跡するために、人工腹膜の断片を連日作製し、HE染色、電子顕微鏡で観察する。その一方で、癌細胞のコロニー形成前からCマウントCCDカメラを搭載した顕微鏡で癌細胞の広がりを連続撮影する。すなわち、腹膜組織に対して癌細胞の縦軸方向広がり、横軸方向の広がりを同時に観察する。以下の条件の細胞で腹膜転移過程を観察する。①HRA細胞の腹膜転移過程、②HRA細胞にCBR1 DNA-PAMAMデンドリマー複合体を48時間毎に添加した場合の腹膜転移過程、③コントロールとしてHRA細胞にPAMAMデンドリマーのみ48時間毎に添加した場合の腹膜転移過程、④CBR1 DNA導入HRA細胞の腹膜転移過程、⑤CBR1 siRNA導入HRA細胞の腹膜転移過程。
人工腹膜作成に要する費用や培養細胞に使用する物品が当初予算よりも少額であったため物品費用が当初計画より大幅に少なくなった。来年度からデンドリマーの使用量が多くなる計画であり、当初予算を超過する可能性があるため次年度使用額を有効に活用できると判断している。
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