研究課題/領域番号 |
17K11266
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
伊藤 潔 東北大学, 災害科学国際研究所, 教授 (70241594)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | CYP17 / androgen / estrogen / endometrial carcinoma / DHEA / androgen receptor |
研究実績の概要 |
本研究では、子宮内膜癌でのCytochrome P (CYP)17A発現作用動態およびCYP17阻害剤: アビラテロンの作用機序と効果を、アンドロゲン及びエストロゲン合成代謝経路の解明とリンクさせながら解析し、臨床応用への可能性を探索することを目的としている。 CYP17A阻害剤であるアビラテロンの子宮内膜癌への直接作用を検討するために、子宮内膜癌手術病理標本(40例)を用いたCYP17Aの免疫組織化学を行った。さらにCYP17Aによって合成されるホルモンを代謝する3β-hydroxysteroid dehydrogenase (HSD) の発現を同様に確認した。結果、CYP17Aは19例、3β-HSDは16例で陽性だったが、いずれにおいてもその発現強度は低かった。さらに、これらの発現に関して組織内性ステロイドホルモン濃度との相関を検討した。また、子宮内膜癌培養細胞株を用いてCYP17Aの発現を検討した。 アンドロゲン&エストロゲン合成代謝経路の子宮内膜癌での概要、およびこの経路に大きな影響を及ぼす17β-hydroxysteroid dehydrogenase (HSD) type5 の子宮内膜癌での基礎的及び臨床病理学的な発現動態などに関しては、国際査読雑誌に投稿・掲載した(Internatinal Journal of Molecular Science, 2018年 計3本)。 また、前年度から解析を進めている、アンドロゲン&エストロゲン合成代謝経路のkey factorであるDehydroepiandrosterone(DHEA)の、子宮内膜癌での組織中濃度とその意義などに関しては、複数の学会で報告を行った(第25回日本生殖内分泌学会、第19回ホルモンと癌研究会など 2018年)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CYP17A阻害剤であるアビラテロンの子宮内膜癌への直接作用を検討するために、子宮内膜癌手術病理標本(40例)を用いたCYP17Aの免疫組織化学を行った。さらにCYP17Aによって合成されるホルモンを代謝する3β-hydroxysteroid dehydrogenase (HSD) の発現を同様に確認した。結果、CYP17Aは19例、3β-HSDは16例で陽性だったが、いずれにおいてもその発現強度は低かった。ついで内膜癌組織局所での性ステロイド濃度(LC-MS/MS法で測定)と、これらの酵素の発現との相関を検討した。3β-HSDの発現は、DHEAと有意な逆相関を認めた。またCYP17Aの発現は、androstenedioneおよびcortisolと、有意な正の相関を認めた。一方で、両者と局所エストロゲン濃度との間には相関は見られなかった。これらの結果より、この二つの酵素は、内膜癌局所での性ステロイドホルモン濃度に重要な影響を与えていることが明らかとなった。これらの知見は、アンドロゲン&エストロゲン合成代謝経路に関する新しい知見であり、研究は順調に推移している。また、子宮内膜癌培養細胞株(Ishikawa、HHUA、MFE-296)を用いた検討では、いずれの株においてもCYP17Aの発現は認められなかったため、CYP17Aを発現する副腎由来の培養細胞株(H295R)との共培養系での検討を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
子宮内膜癌手術症例での検討において、CYP17Aと3β-HSDが、内膜癌局所でのandrostenedioneやDHEAなどの性ステロイドホルモン濃度に、重要な影響を与えていることが明らかとなったので、今後はさらに症例を集積して、CYP17Aおよび3β-HSDの発現動態と他の性ステロイド合成代謝酵素の発現を、免疫組織化学的手法を中心に解析し、ついで各合成代謝酵素のそれぞれの相関を検討し、さらに内膜癌局所での性ステロイドホルモン濃度(LC-MS/MS法で測定)との相関と組み合わせることで、アンドロゲン&エストロゲン合成代謝経路の探索、及びその中でのCYP17Aの役割と位置付けを明らかとする。さらに、CYP17Aおよび3β-HSDの発現動態と臨床病理学的な因子(年齢、予後、進行期、組織型、分化度など)との関連を検討することで、その臨床的な意味を明らかとする。子宮内膜癌培養細胞株(Ishikawa、HHUA、MFE-296)を用いた検討では、いずれの株においてもCYP17Aの発現は認められなかったため、CYP17Aを発現する副腎由来の培養細胞株(H295R)との共培養系での検討が必要であると考え、子宮内膜癌培養細胞株とH295Rの共培養を行い、性ステロイドホルモン合成と内膜癌細胞の増殖・進展との関係、さらにアビラテロン添加が内膜癌細胞の増殖・進展にどのような影響を与えるか、検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)本年度は、子宮内膜癌手術症例でのCYP17Aと3β-HSDの免疫組織化学的な検討、及び培養細胞を用いた基礎的な検討が中心であったため、実験用の消耗品を中心とした物品費やホルモン濃度測定などに充当する金額は当初の予定より少なくなった。 (使用計画)子宮内膜癌培養細胞株と副腎由来の培養細胞株の共培養を行い、性ステロイドホルモン合成と内膜癌細胞の増殖との関係、さらにアビラテロン添加による影響について検討するための実験用消耗品を中心とした物品費および性ステロイド濃度微量測定(LC-MS/MS法で測定)などに使用する予定である。さらに、子宮内膜癌手術症例でのアンドロゲン&エストロゲン合成代謝経路のさらなる探索を行うため、複数の酵素発現の検討に必要な、免疫組織化学を中心とした実験用消耗品に関する物品費に使用する。また、これまでの成果を発表するための発表旅費や投稿料としても使用する予定である。
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