研究課題/領域番号 |
17K11273
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研究機関 | 滋賀医科大学 |
研究代表者 |
辻 俊一郎 滋賀医科大学, 医学部, 講師 (30601546)
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研究分担者 |
村上 節 滋賀医科大学, 医学部, 教授 (20240666)
山中 章義 滋賀医科大学, 医学部, その他 (60452249) [辞退]
林 香里 滋賀医科大学, 医学部, その他 (70569251)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 子宮内膜症 / TGF-β / カラム治療 |
研究実績の概要 |
子宮内膜症を有するカニクイザルに潜在型TGF-β陽性細胞除去カラムを用い安全性と性能およびその効果を評価した。使用したカニクイザルはチョコレート嚢胞を有し、子宮内膜症の診断が確定した2頭を用いた。治療計画は2週間に1度の頻度で計4回、カラムを用いた体外循環により免疫抑制性因子の吸着治療を試みた。開始当初はカラム内圧の上昇および脱血不良等にて中断することがあったが、流量を下げることによりその問題を解決することができた。カラム前後の血液を用いた比較試験において、免疫抑制性因子であるactivated TregおよびTGF-β濃度はカラム後の血液にて低下を認めた。ヒト血液を用いた予備実験において当カラムが潜在型TGF-β陽性細胞を除去することが確認できていたため、同様にカラム前後の血液を用いて検証を行ったが、カニクイザルを用いた試験においては単球の同陽性細胞比率は予想に反しカラム後に上昇し、リンパ球の同陽性細胞比率は一定の傾向は認められないという結果であった。子宮内膜症病変は月に1回全身麻酔下に腹腔鏡を用いて病変を直接観察することにより評価した。1頭は治療開始後に一度増悪した後所見は変化せず。もう1頭も一度増悪するが治療前に比べ病変の改善を認めた。しかし、改善を認めた個体は治療期間中無月経であり、無月経のため子宮内膜症が軽快したのか、カラムにより疾患が軽快したのかの判断は困難であった。両個体とも体外循環施行中のバイタルサインや体重の変化は認めず、1クール目の生化学検査値異常も認めなかった。その後両個体とも計8週間無治療で経過観察したところ、両個体とも疾患は増悪した。現在、経過観察後2クール目を施行し、1クール目で治療効果を認めたカニクイザルは治療効果の再現性評価目的として使用し、治療により不変であったカニクイザルをカラム性能評価目的として使用し検討中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
実験開始前のヒト血液を用いた予備実験とカニクイザルを用いた本実験との間で、カラムの性能が異なる結果となった。これらが種差によるものかin vitroおよびin vivoによるものかの判断は現在できていない。ただ、治療により1頭は改善傾向を示し、治療終了後に2頭とも疾患が増悪したことから、カラム治療によるある一定の効果があった可能性も指摘できる。そこで、本来2頭とも改善傾向があれば次のステップに進む予定であったが、1頭を治療効果の再現性の判断に、1頭をカラムの性能評価目的に使用し検討することとしたため当初の予定よりは進捗が遅れているという判断になった。ただ、カニクイザルを用いたカラム治療の方法に関してはサルの体重減少、死亡など副作用を認めずカラム治療を完遂する方法を確立できたことは成果として挙げることができる。
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今後の研究の推進方策 |
チョコレート嚢胞を有する子宮内膜症罹患サル2頭を用いてカラム治療を行ったが、子宮内膜症の明らかな改善は1個体だけであった。一方、カニクイザルに対するカラム治療を安全に行うための脱血およびカラム圧の調整などの方法は確立できた。そこで、これらの研究成果を活用し、同個体を用いて再度カラム治療を行い、その性能および効果を再検証することとした。子宮内膜症は本来無治療の条件下では、不変か増悪の一途をたどる疾患であり、特にチョコレート嚢胞が自然に軽快することは考えにくい。その観点から、1個体において一度軽快を認めたことはカラム治療による一定の治療効果が考えられるが、抗凝固剤を用いた体外循環というストレスが無月経、排卵障害いう現象を通して疾患の軽快に寄与した可能性も否定できない。そこで、再現性の確認が必要となる。 一方、カラム前後における免疫抑制性因子の十分な吸着が得られなかったことも無視できない。理論上では、カラム施行のたびに免疫抑制性因子の吸着が行えるはずであるが、それらを示すデータはカニクイザルを用いた実験からは得られなかった。カラムの性能改善の余地は十分あると考えている。
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